事業再構築補助金は美容室でも利用できる?要件や注意点も解説
2024/05/14
2023/11/8
美容室を営む事業者の中には、コロナ禍の売上減少や物価高騰、ポストコロナ時代へと進んだ社会変化に対し、今後の経営を検討している人もいますよね。事業再構築補助金は、昨今の社会変化に対応する事業者の「思い切った事業再構築」を支援する制度です。
当記事では、美容室が事業再構築補助金を利用できるかどうかを解説します。事業再構築補助金に申請する際の要件や事例も解説するので、美容室の新たな計画に事業再構築補助金の申請を検討している人は参考にしてみてください。
なお、当記事は事業再構築補助金の第12回公募要領をもとに作成しています。
事業再構築補助金は美容室事業に利用できる
事業再構築補助金は、美容室の事業に利用できます。事業再構築補助金は、中小企業や中堅企業が対象であり、申請要件を満たしていれば美容室を経営する事業者も申請可能です。
事業再構築補助金は美容室の事業でどのように利用できるのかを確認してみましょう。
経費項目 |
利用例 |
建物費 |
店舗の改装費用 |
機械装置・システム構築費 |
新たな事業を開始する際に必要な機材、什器の購入費用 補助事業に必要な専用ソフトウェアの購入など |
外注費 |
お店の外観やロゴデザインを外注する費用 |
広告宣伝・販売促進費 |
情報・予約サイト掲載費、配布用チラシ、看板作製費 |
研修費 |
新分野導入のための技術研修費 |
クラウドサービス利用費 |
クラウドPOSシステムやデジタルマガジンの利用費 |
たとえば、美容室の一角でネイルやまつ毛美容などの新サービスを開始する際の改装費用には「建物費」を活用できます。また、会計や業務のDXを進めるためのPOSレジ導入には「クラウドサービス利用費」を利用できます。
事業再構築補助金では、美容室の事業に関連する幅広い項目が補助されます。申請を検討する場合は、事業計画を立てる際に必要な経費項目を確認しておきましょう。
なお、事業再構築補助金の対象経費は11の項目に分かれており、申請枠によっても補助対象となる経費が異なります。事業再構築補助金の補助対象経費の詳細は「事業再構築補助金における補助対象経費は何か?対象外になる経費も解説」も参考にしてみてください。
補助対象外になる経費を確認しておく
事業再構築補助金には、申請できる経費と申請できない経費があります。事業再構築補助金には「対象にならない経費」として公募要領に明記されている経費の例がいくつかあるため、確認しておきましょう。
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たとえば「建物費」は補助事業に使用する建物の建設・改修のために利用できる経費ですが、建物自体の購入や賃貸の費用としては対象外です。単なる建物の購入や賃貸は、公募要領に記載されている「補助対象外となる経費」の1つであるためです。
また、車やパソコンなどを購入する経費も補助対象外です。補助事業以外にも利用できる汎用性の高い経費は対象外であり、あくまでも事業再構築の補助事業を遂行するための経費のみが対象になります。
事業再構築補助金の申請において、補助対象経費の項目にあてはまらない経費は申請しても通らないため、対象外になる経費も確認しておきましょう。
事業再構築補助金を申請するには要件を満たす必要がある
美容室が事業再構築補助金に申請する際、設定された要件(=申請要件)を満たす必要があります。申請要件には、すべての申請者に定められた要件と、申請する枠ごとに定められた要件があり、要件を1つでも満たせない場合は採択審査に通過できません。
要件 |
概要 |
事業再構築要件 |
事業再構築の類型のうちいずれかに沿った取り組みであること 【事業再構築の類型】 ①新市場進出(新分野展開、業態転換) ②事業転換 ③業種転換 ④事業再編 ⑤国内回帰 ⑥サプライチェーン維持・強靭化 |
金融機関要件 |
事業計画について金融機関や認定経営革新支援機関の確認を受けていること |
付加価値額要件 |
補助事業終了後3~5年で付加価値額を増加させる事業計画を作成すること |
たとえば、事業再構築の類型の1つである「事業転換」とは、新たな製品の製造や商品・サービス提供により「業種」は変更せずに「事業」を変更することです。美容室が新たにエステやネイル事業を始める場合にあてはまります。
また、事業再構築補助金の申請者は、金融機関や商工会、税理士などの「認定支援機関」と相談しながら事業計画を作成する必要があります。付加価値額要件では補助事業後3~5年で、申請枠に応じて3%~5%の付加価値額の増加を求められます。
事業再構築補助金に申請する際、定められた申請要件を満たさなければ審査を通過することができません。すべての申請者に求められる要件に加え、自社が申請する「申請枠」ごとの要件も満たす必要があるため、あわせて確認しておきましょう。
事業再構築の類型に関する詳細は「事業再構築補助金の事業再構築要件とは?類型ごとの要件も解説」も参考にしてみてください。
また、認定支援機関に関する詳細は「事業再構築補助金における認定支援機関とは?役割と選び方を解説」で詳しく解説しています。
申請枠ごとの要件
事業再構築補助金を申請する人は、用意されている申請枠の中から自身の申請する枠を1つ選び申請します。その際、申請枠ごとに設定されている要件を満たせるかどうかを確認する必要があります。
申請枠(事業類型) | 共通の要件 | 申請枠ごとの要件 |
(A) 成長分野進出枠 (通常類型) |
①事業再構築要件
②金融機関要件 ③付加価値額要件 |
④給与総額増加要件および市場拡大要件 ⑤市場縮小要件 ⑥補助率等引上要(補助率引上げを受ける場合) ※④⑤はいずれかを満たすこと |
(B) 成長分野進出枠 (GX 進出類型) |
④給与総額増加要件 ⑤GX 進出要件 ⑥補助率等引上要(補助率引上げを受ける場合) ⑦別事業要件(過去公募回で採択または交付決定を受けている場合) ⑧能力評価要件(過去公募回で採択または交付決定を受けている場合) |
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(C) コロナ回復加速化枠 (通常類型) |
④コロナ借換要件または再生要件 |
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(D) コロナ回復加速化枠 (最低賃金類型) |
④コロナ借換要件(任意)※ ⑤最低賃金要件 ※満たさない場合は補助率引き下げ |
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(E) サプライチェーン強靱化枠 |
④国内増産要請要件 ⑤市場拡大要件 ⑥デジタル要件 ⑦事業場内最低賃金要件 ⑧給与総額増加要件 ⑨パートナーシップ構築宣言要件 ⑩別事業要件(過去公募回で採択または交付決定を受けている場合) ⑧能力評価要件(過去公募回で採択または交付決定を受けている場合) |
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(F) 卒業促進上乗せ措置 |
事業類型(A)~(D)のいずれかに申請すること
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②卒業要件 |
(G) 中長期大規模賃金引上促進上乗せ措置 |
②賃金引上要件 ③従業員増員要件 |
参考:第12回事業再構築補助金「公募要領(サプライチェーン強靭化枠は別「公募要領」)」|事業再構築補助金
事業再構築補助金では、すべての枠に共通して「事業再構築要件」「金融機関要件」「付加価値額要件」の3つの要件が設定されています。申請を検討している人は、まずは共通する3つの要件を満たせるかどうかを確認することになります。
また、すべての申請枠に共通する要件に加えて申請枠ごとの要件も満たす必要があります。自社の事業状況に合わせて、どの申請枠へ申請するかを検討しましょう。
なお、事業再構築補助金の申請要件の詳細は「事業再構築補助金の申請要件とは?」を参考にしてみてください。
補助金額は申請する枠によって異なる
事業再構築補助金では、申請する枠や従業員数によって補助金額の範囲が異なります。また、事業の規模によって適用される補助率も異なるため、事業者は自社の従業員数や事業規模を把握しておく必要があることを前提として覚えておきましょう。
申請枠(事業類型) | 補助金額 | 補助率 |
成長分野進出枠 (通常類型) |
【従業員数 20 人以下】 100 万円~1,500 万円(2,000 万円) 100 万円~3,000 万円(4,000 万円) 100 万円~4,000 万円(5,000 万円) 100 万円~6,000 万円(7,000 万円) ※()は大規模な賃上げを行う場合 ※廃業を伴う場合は廃業費を最大2,000万円上乗せ |
中小企業者等1/2 (2/3) ※()は大規模な賃上げを行う場合 |
成長分野進出枠 (GX 進出類型) |
≪中小企業者等≫ 100 万円~3,000 万円(4,000 万円) 100 万円~5,000 万円(6,000 万円) 100 万円~7,000 万円(8,000 万円) 100 万円~8,000 万円(1億円) ※()は大規模な賃上げを行う場合 100万円~1億円 |
中小企業者等1/2 (2/3)
中堅企業等1/3 (1/2) ※()は大規模な賃上げを行う場合
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コロナ回復加速化枠 (通常類型) |
【従業員数 5 人以下】100 万円~1,000 万円 【従業員数6~20 人】100 万円~1,500 万円 【従業員数 21~50 人】100 万円~2,000 万円 【従業員 51 人以上】100 万円~3,000 万円 |
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中小企業者等2/3(※1) 中堅企業等1/2(※2) |
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コロナ回復加速化枠 (最低賃金類型) |
【従業員数 5 人以下】100 万円~500 万円 【従業員数6~20 人】100 万円~1,000 万円 【従業員数 21 人以上】100 万円~1,500 万円 |
中小企業者等 3/4(2/3) ※「コロナ借換要件」を満たさない場合は()内の補助率に引き下げ |
サプライチェーン強靱化枠 |
1,000 万円 ~ 5億円以内 ※建物費がない場合は3億円以内 |
中小企業者等 1/2 中堅企業等 1/3 |
卒業促進上乗せ措置 | 各事業類型補助金額上限に準じて上乗せ | 中小企業者等1/2 中堅企業等1/3 |
中長期大規模賃金引上促進上乗せ措置 | 100 万円~3,000 万円 | 中小企業者等1/2 中堅企業等1/3 |
(※1)従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは3/4 (※2)従業員数5人以下の場合400万円、従業員数6~20人の場合600万円、従業員数21~50人の場合800万円、従業員数51人以上の場合は1,200万円までは2/3 |
参考:第12回事業再構築補助金「公募要領(サプライチェーン強靭化枠は別「公募要領」)」|事業再構築補助金
たとえば、従業員10人の事業者が「成長分野進出枠(通常類型)」に申請する場合、補助金額の範囲は100万円~1,500万円です。補助率は1/2となるため、先払いする金額として申請者は200万円~3,000万円の資金を準備する必要があります。
また、事業再構築補助金で補助される経費総額は通常、事業再構築を行う「補助事業」の実施期間にあたる12ヶ月~28ヶ月の間に発注~支払いが完了している経費です。期間を超えての分割払いはできないことに留意して、補助金額を確認しましょう。
事業再構築補助金でいくら補助金を受けられるのかを知りたい場合は、申請する経費の合計金額と申請枠に設定されている補助率で計算できます。美容室の補助事業計画を立て、かかる経費に対していくら補助されるのかを計算してみてください。
なお、補助金は原則として経費を導入して事業を実施したのちに振り込まれる後払いの制度です。経費に掛かる金額は事業者が一時的に全額負担することになるため、資金調達の計画も立てておきましょう。
補助される金額の計算例
事業再構築補助金の補助金額は、申請する経費の「合計金額」と申請枠に設定されている「補助率」を掛けて算出します。美容室の事業再構築で補助される金額を想定してみましょう。
①利用する経費の合計金額を計算する
経費の合計 1,200万円 ②申請する枠の補助率を確認する 従業員6人の中小企業者が成長分野進出枠(通常類型)へ申請する場合 補助率1/2 ③補助される金額=経費の合計×補助率 1,200万円×1/2=600万円 ④算出された金額が補助額の範囲内か確認する 従業員6人の中小企業者が成長分野進出枠(通常類型へ申請する場合) 補助額の範囲:100万円~1,500万円 算出された金額は補助額の範囲内なので、最大の600万円を申請できる |
たとえば、従業員6人の中小企業者が成長分野進出枠(通常類型)へ申請する場合、経費を1,200万円使うと600万円補助される計算です。経費に補助率を掛けた金額である600万円は成長分野進出枠(通常類型)の補助金額の範囲内のため、そのまま600万円が補助される金額になります。
一方で、計算をした金額が申請する枠の補助金額を超える場合は、補助金額の範囲内までしか補助されません。仮に、同一の事業者において申請する経費が4,000万円だった場合、補助率1/2で計算すると2,000万円ですが受け取れる補助金額は補助上限額である1,500万円までとなります。
事業再構築補助金に申請する際は、申請した経費が補助金額の範囲に収まるかを確認しておきましょう。補助上限額を上回る場合は、その分の自己負担が増えることになるため、申請する経費の見直しもあわせて検討しましょう。
美容室の採択事例
過去の公募回において、美容室に関連する事業が採択された事例を紹介します。
採択事例 |
内容 |
美容室専売商品のECサイト提案型販売 |
・美容師が開発した付加価値の高い自社用品やプロ御用達の厳選仕入れ商品のEC販売 ・動画やAIチャットを組み込み、コンサルティングセールスを実現 |
美容師のノウハウを生かした メンズトータルビューティー事業 |
・これまでの理容室にメンズエステ事業を追加し、1つの場所で理容室と脱毛などを合体させた新しい事業展開 ・13名の国家資格を持つ美容師が独自のサービスを提供 |
美容室と衣装レンタル・ 撮影スタジオの新分野展開 |
・2フロアの美容室を改装し、既存の美容室のフロアと衣装レンタル、着付けサービス、撮影スタジオを展開 |
子供専用美容室のオープン |
・ファミリー層が集中するショッピングモール内に地域初のキッズ美容室を出店し、広告・宣伝効果を狙う ・お子様向けメニュー以外にもパパママ用のカットメニューも併設 |
事業再構築補助金の事業計画書を作成する前に過去の採択事例に目を通し、自身の目指す事業再構築の参考にしてみましょう。また、公式サイトの「採択結果」では過去の公募回において、採択者がどのような事業計画で採択されているのかを一覧で確認できます。
事業再構築補助金を申請する際の注意点
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たとえば、チェーン店やフランチャイズ加盟店の美容室で、大企業がバックについている場合は「みなし大企業」に当てはまらないかを確認する必要があります。具体的には「株式の総数又は出資価格の総額の2/3以上を大企業が所有している中小企業者」などが当てはまります。
また、補助金に申請して採択を受けた事業者であっても、基本的に「交付決定通知」を受ける前の日付で発注や購入した経費は補助対象外になります。補助事業は交付決定通知を受けたあとに開始できることを留意しておきましょう。
交付決定通知に関する詳細は「事業再構築補助金の交付申請はいつまでに行う?必要書類も解説」も参考にしてみてください。
この記事のまとめ
事業再構築補助金の対象は中小企業や中堅企業であり、要件を満たしていれば美容室を経営する事業者も申請可能です。事業再構築補助金の申請者は全員「事業再構築要件」「金融機関要件」「付加価値額要件」を満たす必要があります。また、申請する枠によってもそれぞれ異なる要件が定められています。
美容室の事業再構築に活用できる補助対象経費には「建物費」「機械装置・システム構築費」などさまざまな経費項目が用意されています。補助金に申請する際は、自身の事業計画に必要な経費はどの項目の経費として申請できるのかを確認しましょう。
美容室の事業再構築につながる事業計画を立てることが難しい場合は、実際に採択された事例の内容が1つの参考になります。また、補助金の申請から交付に至るまでにはいくつか注意点があるため、最新の公募要領や公式サイトには必ず目を通しておきましょう。