事業再構築補助金でECサイトを構築する時の注意点と採択事例を解説
2024/05/14
2022/3/25
事業再構築補助金は、いまの事業の強みを活かし、別の事業に組み替える事業計画に対する経費の一部を補助する制度です。事業者がECサイトを立ち上げる費用も、場合によっては補助の対象となり得ます。
ただし、事業再構築補助金は単にイーコマース(電子商取引)を行うwebサービスを行うECサイトを構築すれば採択される訳ではありません。
事業再構築補助金で採択された事業者はどのような事業計画を提出したのか、再構築した事業の類型ごとの採択事例と、ECサイト構築に関連して申請できる補助対象の経費項目について解説します。
なお、当記事は事業再構築補助金の第12回公募要領をもとに作成しています。
事業再構築補助金でECサイト構築を前提に採択された事例
事業再構築補助金では、事業者が既存の事業の強みを活かした再構築する事業計画書を提出しますが、「ECサイトを構築する」ことを前提に計画立案する事業者は少なくありません。
まずは、事業再構築補助金で、ECサイト構築を前提に採択された事例を見ていきましょう。前提として、新たに事業を構築し直すために、新たにECサイトを構築するのであれば、事業再構築補助金の対象となります。
しかし、事業者が既に同じようなECサイト事業を行なっている・行なったことがある場合は「事業の再構築」にならないため、事業再構築補助金の補助対象外となる点に留意しておきましょう。
なお、ECサイトの対象顧客や取り組む事業が異なれば、別種のECサイトとして扱われるため補助対象になる可能性があります。
カフェ運営⇒ECサイトでケーキ販売(新分野展開)
1つ目にご紹介するのは、これまで飲食店として店舗でカフェ運営をしていた事業者が、消費者からのアクセスや注文を受け付けられるECサイト構築を志した事業計画です。
カフェを休業して開店しての繰り返しの中で売上が安定しない点を「来店しない形での顧客への価値提供」と同時に「収益を上げられる」事業として模索しました。
その結果、カフェ事業とあわせて行なっていた「イベント事業」の長所をあわせて、イベント企画とカフェらしさを組み合わせた「企画性があり、カフェで評判が良かったケーキを販売するECサイト構築」という事業計画を立案し、採択されました。
すし店経営⇒多角化経営+ECサイトで商品の一部を販売(事業転換)
2つ目のECサイト構築の採択事例は、長年すし店を経営してきた事業者の事業計画です。
この事業者はすし店の経営を複数行っていましたが、収益性や将来性を考え、そのうちの一部の店舗を別種の店にすることを検討しました。さらに、日持ちする商品も同時に開発し、ギフト販売・店舗予約が行えるECサイト構築を前提に事業計画を立案しました。
すし店のみの経営から、すし以外の種類も扱う飲食店の多角化経営となると、審査で評価につながりにくいように見受けられます。しかし、すし店でも使用する高級食材を使い、付加価値アップと原材料の回転率のアップを同時に図った点、複数のすし店を長く経営してきた経歴が高く評価され、採択につながったと考えられます。
B to B向け食品の卸売販売⇒ECサイトでB to Cに販路拡大(業種転換)
3つ目の採択事例は、販売する顧客を事業者向けだけでなく、個人向けに販路拡大するあたり、ECサイト構築を掲げた事業計画です。
この事業者はこれまで食品を事業者向けに卸販売していましたが、発注の増減で安定した収益が見込めなくなったため、新たに個人向けのECサイトを立ち上げ、個人消費者向けの販売サイトを立ち上げ、販路拡大する計画を立案しました。
個人向けのECサイト販売の経験はありませんでしたが、既に運営しているB to Bの事業者向けのECサイト運営の経験がある点、食品の卸売として長い経験がある点が評価され、採択されました。
農業の生産者⇒ECサイトを立ち上げ自ら販売(業態転換)
4つ目の採択事例は、農業の生産者が自ら製造から販売まで一貫して行うためのECサイト構築を前提にした事業計画です。
農業の生産者がECサイトをつくれば、これまで野菜などを生産して卸売店や市場・小売店に卸すことが主体だった農業生産者は、小売業の事業者に含まれます。生産者から直接購入する消費者にとっても、購入先の選択肢が増える、新鮮な野菜などが手に入れられる、などの利益を享受でき、社会の課題を解決するものとして高く評価されました。
なお、事業再構築補助金では、農業や漁業などの一次産業の従事者でも、要件を満たせば補助の対象となります。ただし、これまでニンジンを作っていた事業者がジャガイモを作るなど、単に生産品目を変える場合は事業の再構築と扱われないため、補助対象になりません。
事業再構築補助金は経済産業省が主体となる補助金ではありますが、現在、農林水産省が1次産業としての農業・林業・漁業と、2次産業としての製造業、3次産業としての小売業などの事業との総合的かつ一体的な推進について「1次産業から6次産業化へ」と推奨しています。
この採択事例の事業者は、農業を「1次産業から6次産業化へ」という取り組みをし、生産だけでなく販売まで多角的に行う事業計画を立てたため、採択につながったと言えます。
アパレル運営⇒菓子会社M&A⇒菓子販売ECサイト(事業再編)
最後にご紹介する採択事例は、他業種を組み合わせ、双方の良さを生かしたECサイト構築を行う事業計画です。事業再構築補助金では、異業種・同業種問わず、複数事業者の再編による事業再構築も対象となります。
アパレル事業を行ってきた事業者が、店舗での菓子販売の他に、ネットショップでの菓子販売も行っていた菓子販売事業をM&Aで買収しました。
菓子販売事業での店舗・ECサイト運営のノウハウを吸収し、これまでアパレル販売一本で収益をあげてきたビジネスモデルを、アパレルと菓子販売という異なる2つの強みから収益をあげる計画を立案したことが評価されています。
事業再構築補助金でECサイト構築を前提にした事業計画にする際の注意点
事業再構築補助金を使ってECサイトを立ち上げることは可能ですが、注意点があります。まず、補助金の大前提として、ECサイト構築費用の全額が、支払われるわけではない点をおさえましょう。
事業再構築補助金においては、補助金額や補助率が申請枠や企業規模ごとに定められています。
たとえば、成長分野進出枠(通常類型)へ申請する従業員5人の中小企業者の場合、補助額は100万円~1,500万円、補助率は1/2と定められています。この事業者がECサイト構築に関する1,000万円の経費を申請したとすると、補助率が1/2のため500万円が補助額となります。
ただし、同一の事業者が4,000万円の経費を申請した場合、補助率1/2で計算すると2,000万円ですが、補助額は最大1,500万円のため上限の1,500までの支給となります。
補助金に採択された場合でもすべてが補助される訳ではなく、補助されない分の金額は自己負担となる点を前提として覚えておきましょう。
ECサイト構築は目的ではなく、あくまで手段
事業計画とは、事業者がこれから行う事業計画の概要や資金計画、導入スケジュールなどの詳細を記した計画です。
事業再構築補助金では、複数の「審査項目」を満たした事業計画書を提出する必要があるため、単に「店舗で集客しづらくなったので、ECサイト構築します」という事業計画では、採択されない可能性が高いです。ECサイトでどう集客するのか、競合他社と違う強みをどう組み込むのか、既存の事業の強みをどう活かすのかを盛り込まないと、事業計画としては不十分だからです。
本記事でご紹介した採択事例も、ECサイト構築を目的とした事業計画ではなく、ECサイトによる集客や売上の向上を見据えています。主要の事業の売上をアップし、継続するための「事業再構築計画」をまず立て、その手段のひとつとしてECサイト構築を選ぶ、という流れで事業計画書を作成しています。
なお、事業計画書の書き方については、関連記事にて詳しくご説明しています。
販路開拓だけでは事業再構築補助金の対象外
事業再構築補助金には申請するのに満たす必要がある要件が複数あります。事業再構築補助金の場合は販路開拓を目的とするだけでは補助金の対象外となる可能性があるため、申請する際には要件を確認しておきましょう。
事業再構築補助金において、すべての申請者に共通する要件が3つあります。
【共通の要件】
要件 |
概要 |
事業再構築要件 |
事業再構築の定義(類型)に沿った取組であること |
金融機関要件 |
事業計画書について金融機関要件や認定支援機関の確認を受けること |
付加価値額要件 |
補助事業終了後3~5年で付加価値額の年平均成長率が3.0~5.0%以上増加する見込みの事業計画をたてること ※従業員1人あたりの付加価値額でも可 ※増加率の数値は申請枠ごとに異なる |
これらの要件に加え、申請する枠ごとにも満たすべき要件が定められています。申請要件については以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
他の事業と共用できる契約は補助対象外
事業再構築補助金で補助の対象とされる経費は、あくまで補助事業でのみ使われる機器やECサイト構築費です。公募要領の中で、補助対象経費の項目において以下の記載があります。
【専ら補助事業のために利用するクラウドサービスやWEBプラットフォーム等の利用費であって、自社の他事業と共有する場合は補助対象となりません】
引用:第12回公募要領(P.35)|事業再構築補助金
新規でECサイトを立ち上げるための外注費や専門家経費は補助の対象となりますが、もし既存のECサイトと合体する場合は「既存事業にも補助金を使われる」とみなされ、補助の対象外となります。
既存のECサイトとは別に、新たにECサイトを構築する必要がある点に注意しましょう。
サーバー自体の購入費・レンタル費用は補助金の対象外
事業再構築補助金で補助対象の経費となるのは、SaaSなどのECサイトのサービスやパッケージを利用したECサイト構築の費用です。公募要領の中で、補助対象経費の項目において以下の記載があります。
【サーバーの領域を借りる費用(サーバーの物理的なディスク内のエリアを借入、リースを行う費用)、サーバー上のサービスを利用する費用等が補助対象経費となります。サーバー購入費・サーバー自体のレンタル費等対象になりません】
引用:第12回公募要領(P.35)|事業再構築補助金
事業者が購入・レンタルでサーバーを調達し、ECサイトの仕組みを用意する場合のサーバー調達費用は事業再構築補助金において補助対象外となる点に留意しましょう。
補助期間中以外の支払いは補助金の対象外
補助の対象となる期間は補助期間中のみのため、ECサイト構築に関係する契約期間には注意が必要です。公募要領の中で、補助対象経費の項目において以下の記載があります。
【サーバーの領域を借りる費用は、見積書、契約書等で確認できるものであって、補助事業実施期間中に要する経費のみとなります。したがって、契約期間が補助事業実施期間を超える場合の補助対象経費は、按分等の方式により算出された当該補助事業実施期間分のみとなります。】
引用:第12回公募要領(P.35)|事業再構築補助金
同一のサービスに対する費用であっても、契約期間が補助事業実施期間以外に及ぶ場合は、補助事業実施期間分の契約費用のみが補助されることになります。
なお、事業者は最初にクラウドサービス費を自費で支払い、補助事業を開始します。約1年後に、事業再構築補助金事務局に対して手続きをすることで、事業者が支払ったクラウドサービス費の一部をキャッシュバックとして受け取ることができる後払いの制度であることに留意しておきましょう。
パソコン・タブレットなどの情報端末の購入費は補助金対象外
事業再構築補助金では原則、汎用性のある品目の購入費用は補助の対象外です。補助事業以外にも使える車両や事務所の建築費のほか、パソコン・タブレット、スマートフォンなどの情報端末、プリンター、文具、従業員の給与についても補助対象経費にはできません。
事業再構築補助金における対象経費については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてみてください。
事業再構築補助金でECサイトをつくる事業者が補助される経費項目
事業再構築補助金の補助対象となる経費として申請できる、ECサイト構築に関連する経費項目についてご紹介します。ひとことでECサイト構築といっても、かかる費用の項目はさまざまであり、事業者により作成する事業計画も違うので、事業者によって申請する経費項目は異なります。
ここでは、事業者が事業再構築としてECサイトをつくる場合、一般的にかかる経費項目をおさえましょう。
システム構築費用
事業再構築補助金で一般的にECサイトを作る場合、コスト・必要な機能・セキュリティ対策・運用サポート体制などとあわせて仕様を決め、ECサイトをクラウドサービス(SaaS)として提供しているIT事業者やベンダーに問い合わせて見積書を請求します。
仕様が決まった時点で、複数のIT事業者やベンダーに相見積もりを依頼するのが原則ですが、やむを得ない理由により相見積が取れない場合は「業者選定理由書」を提出する必要があります。
業者選定理由書については以下の記事でも解説しているので、参考にしてみてください。
サーバーレンタル費用
前述したように、自社独自のサーバーを購入する費用は、事業再構築補助金では補助の対象外です。
しかし、他社が運用しているサーバー領域の一部を借りる際のレンタル料は、補助の対象となります。付随するルータなどの付属品購入費・レンタル費用が発生する場合は、その費用も補助対象経費として計上できます。
外注費
ECサイトでwebデザインを発注する場合にデザイナーやコーダー、運用を外部委託する場合に保守担当やwebライターなどに支払う外注費も補助対象です。
サポート費用
自社にIT担当者がいない、ECサイトの構築費用にサポート費用が含まれていない場合、サポート費用を別途請求されることもあります。その場合のサポート費用も、事業再構築補助金の補助対象です。
この記事のまとめ
・事業再構築補助金のECサイト構築で採択された事例には、飲食店が新商品開発した商品を売るためのECサイトや、リアル店舗のリニューアルに関わるECサイトなど、様々なケースがあります。
・ECサイト構築で事業再構築補助金に応募する場合、サーバー購入費は対象外です。ただし、他社が運用しているサーバー領域の一部を借りる際のレンタル料は、補助対象です。
・なお、月額で発生する費用は補助事業期間のみが補助対象です。