補助金ガイド

ものづくり補助金におけるグローバル枠を解説

2024/08/29

2024/6/28

この記事の監修

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者田原広一(たはら こういち)

融資支援実績6,000件超、補助金申請支援実績1,300件超、事業再構築補助金採択支援件数は第4回~第8回まで5回連続で日本一を獲得。 『小規模事業者持続化補助金』、『事業再構築補助金』、『IT導入補助金』は自社での申請・採択も経験。「補助金ガイド」LINE公式アカウントでは約4万人の登録者に情報発信を実施。

ものづくり補助金のグローバル枠は、海外事業を実施して国内の生産性を高める取り組みを対象とした申請枠です。海外事業や訪日外国人向けの事業を展開している事業者は、グローバル枠の対象となる可能性があります。

当記事では、ものづくり補助金のグローバル枠を解説します。対象事業や補助額、補助率に加え、申請に必要となる準備の内容も紹介するため、ものづくり補助金のグローバル枠への申請を検討している人は参考にしてみてください。

なお、当記事はものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業公募要領(18次締切分)を参考に作成しています。

グローバル枠は4つの対象事業がある

ものづくり補助金のグローバル枠は4つの対象事業があります。グローバル枠は海外事業を実施して国内の生産性を高める取り組みが支援の対象とされますが、対象となる海外事業は4つに分類されているため、まずはグローバル枠の4つの対象事業を確認してみましょう。

【グローバル枠の対象事業】

対象事業

具体例

海外への直接投資事業

海外拠点と国内拠点の双方での一体的な取り組みを行うことにより、グローバル規模での製品やサービスの提供体制を整える

海外市場開拓(輸出)事業

海外への輸出を目的として製品やサービスの開発、ブランディング、新規販路開拓などを行う

インバウンド対応事業

製品やサービスの提供体制を構築し、海外からのインバウンド需要を獲得する

海外企業との共同事業

海外企業との共同研究や共同事業により、新たな製品やサービスを展開する

参考:公募要領 18次締切分p.19)|ものづくり補助金

グローバル枠の対象事業のひとつは「海外市場開拓(輸出)事業」です。「自社製品やサービスの開発」「ブランディング」「販路開拓」などを行うことにより、輸出事業に取り組む事業者が対象となります。

また、グローバル枠の対象事業のひとつは「インバウンド対応事業」です。「製品やサービスの提供体制の構築」「ブランディング」「広告宣伝」などを行うことにより、訪日外国人向けの事業に取り組む事業者が対象となります。

なお、ものづくり補助金の対象は日本国内に本社および補助事業の実施場所を有する事業者です。日本国内に本社のない事業者はものづくり補助金の対象外となるため、グローバル枠を検討している人は留意しておきましょう。

グローバル枠の補助内容を確認する

対象事業を確認したあとは、グローバル枠の補助内容を確認してみましょう。補助内容を確認することにより、グローバル枠の全体像を把握できるため、グローバル枠の申請を検討している人は補助内容を押さえてみてください。

【グローバル枠の補助内容の項目】
  • 補助額と補助率
  • 補助対象経費

    グローバル枠の補助内容の項目は「補助額と補助率」「補助対象経費」が挙げられます。ものづくり補助金の他の申請枠とは異なる部分があるため、グローバル枠の申請を検討している人は各項目を確認してみましょう。

    補助額と補助率

    グローバル枠の申請を検討している人は、グローバル枠の補助額と補助率を確認してみましょう。グローバル枠の補助額と補助率は「省力化枠」「製品・サービス高付加価値化枠」とは異なる特徴があるため、まずは補助額と補助率を押さえてみてください。

    【グローバル枠の補助額と補助率】

    項目

    概要

    補助額

    100万円~3,000万円

    補助率

    中小企業は1/2

    小規模企業者・小規模事業者は2/3

    参考:公募要領 18次締切分p.19)|ものづくり補助金

    グローバル枠の補助額は100万円から3,000万円です。「省力化枠」「製品・サービス高付加価値化枠」は従業員数によって補助額が異なりますが、グローバル枠の場合は従業員数に関わらず、最大3,000万円を受給できる可能性があります。

    また、グローバル枠の補助率は「中小企業は2分の1」「小規模企業者や小規模事業者は3分の2」です。「省力化枠」は補助額によって補助率が異なりますが、グローバル枠の場合は補助額に関わらず、事業者の規模ごとの補助率が適用されます。

    なお、大幅な賃上げを行う場合は特例により補助額が引き上げられます。引き上げ額は従業員数次第ですが、グローバル枠の場合は100万円から1,000万円の引き上げの可能性があるため、賃上げを検討している人は特例の申請も検討してみましょう。

    対象経費

    グローバル枠の申請を検討している人は、グローバル枠の対象経費を確認してみましょう。対象経費はすべての申請枠で対象となる経費に加え、グローバル枠の「海外市場開拓(輸出)事業」にのみに認められている経費があるため、まずは対象経費を押さえてみてください。

    【ものづくり補助金の対象経費】

    項目

    経費

    具体例

    すべての申請枠の対象経費

    機械装置・システム構築費

    「越境ECサイトの構築費」

    AIによる翻訳機の導入費」など

    運搬費

    「資料の郵送費」

    「既存設備の運搬費」など

    技術導入費

    「特許権の取得費」

    「商標権の取得費」など

    知的財産権等関連経費

    「外国特許申請のための翻訳料」

    「特許の申請にかかわる弁理士の代行費」など

    外注費

    「パッケージデザインの外注費」

    「製品加工の外注費」など

    専門家経費

    「公認会計士へのコンサルティング費」

    「医師への技術指導費」など

    クラウドサービス利用費

    「クラウドサービス登録費」

    「サーバーレンタル費」など

    原材料費

    「試作品の原材料費」

    「試作品の副資材費」など

    海外市場開拓(輸出)事業のみ追加される対象経費

    海外旅費

    「海外出張時の渡航費」

    「海外出張時の宿泊費」など

    通訳・翻訳費

    「取引先との会議の通訳費」

    「取引先の資料の翻訳費」など

    広告宣伝・販売促進費

    「海外の販路拡大のためのCM費」

    「海外での展示会出展費」など

    参考:公募要領 18次締切分p.22)|ものづくり補助金

    たとえば、すべての申請枠の対象経費は「機械装置・システム構築費」です。補助事業に必要となる機械装置やシステムが対象となり、「パソコン」「プリンタ」などの目的外の使用が可能なものは認められないおそれがあるため、ものづくり補助金に申請する人は対象となるものに留意することになります。

    また、海外市場開拓(輸出)事業のみ追加で認められる経費は「広告宣伝・販売促進費」です。補助事業に関わる広告や宣伝が対象となり、事業者全体の広告に関する経費は対象外となるため、海外市場開拓(輸出)事業に申請する人は対象となる広告宣伝費に留意することになります。

    なお、ものづくり補助金はすべての申請枠で設備投資が必須です。グローバル枠に申請する場合も単価が50万円以上(税抜)の設備を導入しなければならないため、グローバル枠の申請を検討している人は設備投資を前提とした事業計画の策定を念頭に置いておきましょう。

    グローバル枠を申請するときに準備することを押さえる

    グローバル枠の申請を検討している人は、申請するときに準備することを押さえておきましょう。準備する内容を押さえておくことにより、段階的に準備を進められる可能性があります。

    【グローバル枠を申請するときの準備】
    • 事業ごとの要件を満たす
    • 事業ごとの提出書類を揃える

      グローバル枠を申請するときの準備は「事業ごとの要件を満たすこと」「事業ごとの提出書類を揃えること」が挙げられます。4つの対象事業ごとに準備の内容が異なるため、グローバル枠の申請を検討している人は各項目を確認してみましょう。

      事業ごとの要件を満たす

      グローバル枠を申請するときの準備のひとつは、事業ごとの要件を満たすことです。グローバル枠を申請する場合、全事業の共通要件と4つの対象事業ごとの要件を満たすことになるため、グローバル枠の申請を検討している人はグローバル枠の要件を確認してみましょう。

      【グローバル枠の要件】

      項目

      要件

      全事業共通

      • 事前に実現可能性調査を実施すること
      • 「社内に海外事業の専門人材を有する」または「海外事業に関する外部の専門家と連携する」こと

      海外への直接投資事業

      • 国内拠点と海外拠点の双方をもつこと
      • 補助対象経費の2分の1以上が「海外支店の補助対象経費」「海外子会社の事業活動に対する外注費または貸与する機械装置やシステム構築費」のどちらかに充てられること
      • 国内事業所でも海外事業と一体的な単価50万円(税抜き)以上の機械装置などを取得すること

      海外市場開拓(輸出)事業

      • 製品などの最終販売先の2分の1以上が海外顧客であること
      • 計画期間中の補助事業の売上累計額が補助額を上回る事業計画を有していること

      インバウンド対応事業

      • 製品やサービスなどの販売先の2分の1以上が訪日外国人であること
      • 計画期間中の補助事業の売上累計額が補助額を上回る事業計画を有していること

      海外企業との共同事業

      • 外国法人と行う共同研究や共同事業開発に伴う設備投資などであること
      • 成果物の権利の全部または一部が補助事業者に帰属すること

      参考:公募要領 18次締切分p.19)|ものづくり補助金

      たとえば、インバウンド対応事業の要件のひとつは「製品やサービスなどの販売先の2分の1以上が訪日外国人となること」です。「2分の1以上」の指標は、想定する顧客数や販売先数、売上額などに応じて設定することになります。

      また、海外企業との共同事業の要件のひとつは「外国法人と行う共同研究・共同事業開発に伴う設備投資などであること」です。補助金を受給する事業者と資本関係のある外国法人は補助の対象外となるため、外国法人との資本関係の有無に留意することになります。

      なお、グローバル枠には共通要件があります。共通要件は事業内容に関わらず、グローバル枠に申請するすべての事業者が満たさなければならない要件になるため、グローバル枠の申請を検討している人は各事業の要件と共通要件を確認しておきましょう。

      ものづくり補助金の基本要件も満たさなければならない

      グローバル枠に申請するときは、ものづくり補助金の基本要件も満たさなければなりません。基本要件は申請枠に関わらず、すべての事業者が満たさなければならない要件となるため、グローバル枠を検討している人はものづくり補助金の基本要件も押さえておきましょう。

      【ものづくり補助金の基本要件】

      以下の要件をすべて満たす35年の事業計画を策定すること

      • 事業者全体の付加価値額を年平均成長率 3%以上増加
      • 給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加
      • 事業場内最低賃金を毎年地域別最低賃金+30円以上

      参考:公募要領 18次締切分p.14)|ものづくり補助金

      基本要件のひとつは事業者全体の付加価値額の増加です。付加価値額は「営業利益」「人件費」「減価償却費」を足したものを指し、事業計画期間中に年平均成長率3%以上に増加させることが要件となります。

      また、基本要件のひとつは、給与支給総額の増加です。給与支給総額は非常勤職員を含む全従業員と役員に支払った「給料」「賃金」「賞与」「役員報酬」などを指し、事業計画期間中に年平均成長率1.5%以上に増加させることが要件となります。

      なお、ものづくり補助金の受給後に目標の数値に達しなかった場合は補助金の返還義務があります。グローバル枠を申請する場合は実現可能性を考慮しながら、事業計画を策定することを検討してみましょう。

      事業ごとの提出書類を揃える

      グローバル枠を申請するときの準備のひとつは、事業ごとの提出書類を揃えることです。グローバル枠を申請する場合、4つの対象事業ごとに提出書類が異なるため、グローバル枠の申請を検討している人はグローバル枠の提出書類を確認してみましょう。

      【グローバル枠の提出書類の例】

      対象事業

      提出書類

      海外への直接投資事業

      「海外子会社等の事業概要」「財務諸表」「株主構成が分かる資料」

      海外市場開拓(輸出)事業

      「海外市場調査報告書」(事前のマーケティング調査に基づき、想定顧客が具体的に分かるもの)

      インバウンド対応事業

      「インバウンド市場調査報告書」(想定顧客が具体的に分かるもの)

      海外企業との共同事業

      「共同研究契約書」または「業務提携契約書」

      参考:公募要領 18次締切分(p.19)|ものづくり補助金

      たとえば、海外市場開拓(輸出)事業の場合は申請時に「海外市場調査報告書」の提出が必要です。報告書の様式は定められていませんが、販売を想定している製品の「販売する国」「顧客ニーズ」「販売戦略」などの項目を具体的に表記する方法があります。

      また、インバウンド対応事業の場合は申請時に「インバウンド市場調査報告書」の提出が必要です。報告書の様式は定められていませんが、販売を想定しているサービスの「市場環境」「競争環境」「顧客ニーズ」などの項目を具体的に表記する方法があります。

      なお、提出する書類はすべて「日本語での作成」または「日本語訳の添付」が必要です。「海外企業との契約書」「海外企業からの見積書」など、他言語の書類は「日本語での作成」または「日本語訳の添付」が必要となるため、グローバル枠の申請を検討している人は書類の作成方法にも留意しましょう。

      すべての申請者が必要となる書類もある

      グローバル枠に申請するときは、すべての申請者が必要となる書類もあります。申請枠に関わらず、ものづくり補助金の申請者が提出する書類があるため、グローバル枠を検討している人はすべての申請者が必要となる書類も押さえておきましょう。

      【すべての申請者が必要となる書類の例】
      • 事業計画書
      • 補助経費に関する誓約書
      • 決算書
      • 従業員数の確認書類
      • 労働者名簿

      参考:公募要領 18次締切分p.34)|ものづくり補助金

      たとえば、すべての申請者が必要となる書類のひとつは「事業計画書」です。ものづくり補助金の公式サイトでは、事業計画書の参考様式が紹介されているため、様式を参考にしつつ、独自の事業計画書を作成することになります。

      また、すべての申請者が必要となる書類のひとつは「決算書」です。法人の場合は「直近2年間の貸借対照表」「損益計算書」などの複数の書類が必要となり、個人事業主の場合は「確定申告書」が必要となるため、事業形態に応じた書類を用意することになります。

      なお、今回紹介した書類は一例です。「法人を設立したばかりの場合」「加点を申請する場合」など、申請者の状況によっても必要となる書類が異なるため、グローバル枠の申請を検討している人は状況と照らし合わせながら必要となる書類を確認してみましょう。

      ものづくり補助金の申請における書類の情報を知りたい人は「ものづくり補助金を申請するときの必要書類を解説」を参考にしてみてください。

      採択事例も参考にしてみる

      グローバル枠の申請を検討している人は、採択事例も参考にしてみましょう。ものづくり補助金の公式サイトでは、グローバル枠へ名称が変更される前の「グローバル展開型」に採択された事業計画名が公開されています。

       【グローバル展開型の採択事例】

      公募回

      事業計画名

      9

      • ベトナム国内の水産養殖汚泥処理サービスの開発及び事業化
      • 台湾市場向けワイヤーレス建方工法専用治具の製造及び販路開拓
      • インバウンド向け「非接触クラウド音声ガイドプラットフォーム」

      10

      • 販売高30倍を実現させるミャンマー流通事業のDX化
      • グローバル展開に於ける美味しさが長持ちする鰻蒲焼商品の実現
      • 国産牛肉の二次加工品の越境BtoB及び国内BtoB事業

      11

      • WEBシステムを利用したフィリピンにおける中古トラック等販売
      • 訪日外国人向け漢字名タトウーシールの自動販売システムの構築
      • 言語学習アプリ連携型就業マッチングシステムの海外共同開発

      12

      • ブレンド済鹿沼土の開発でアメリカ全土への市場展開に挑戦
      • 地盤沈下・免震・雨水利用技術によりインドネシアの住宅強靭化を牽引
      • 搾りたてのフレッシュな生酒の量産体制確立とアメリカへの輸出の展開

      13

      • 日本の缶詰とデジタル化の推進に伴いフードロスの解決を図る中国越境EC事業
      • ベトナムの医療機関における横断的なクラウド型統合システムの開発
      • マラウイにて食品加工機械の製造・販売・メンテナンスをワンストップ展開

      参考:採択結果|ものづくり補助金

      ものづくり補助金の公式サイトの「採択結果」では、グローバル展開型で採択された事業計画名と事業者名の一覧を確認できます。気になる事業計画名があった場合は、事業者名をインターネットで検索することにより、詳しい事業内容を把握できる可能性があります。

      また、ものづくり補助金の公式サイトの「成果事例のご紹介」では事例の検索ができます。申請枠の検索はできませんが、「国名」「製品名」「サービス名」などの項目を検索画面のキーワード欄に入力することにより、詳しい事業内容を把握できる可能性があります。

      なお、ものづくり補助金の申請枠や要件は変更される可能性があります。過去の採択事例を参考にできる点もありますが、事例採択時の申請枠や要件は今後の公募要領とは異なることも考えられるため、採択事例を参考にするときは念頭に置いておきましょう。

      この記事のまとめ

      ものづくり補助金のグローバル枠は4つの対象事業があります。「海外への直接投資事業」「海外市場開拓(輸出)事業」「インバウンド対応事業」「海外企業との共同事業」に分類されるため、グローバル枠を検討している人は、自身がどの事業に該当するのかを検討してみましょう。

      グローバル枠の補助内容の項目は「補助額と補助率」「補助対象経費」が挙げられます。グローバル枠の補助内容は「省力化枠」や「製品・サービス高付加価値化枠」と異なる部分があるため、グローバル枠を検討している人は各項目を確認してみてください。

      グローバル枠を申請するときの準備は「事業ごとの要件を満たすこと」「事業ごとの提出書類を揃えること」が挙げられます。4つの対象事業ごとに準備の内容が異なるため、グローバル枠を検討している人は申請する事業に応じた準備を進めてみましょう。

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