印刷業でものづくり補助金を利用する事業者向け要件と採択事例の解説
2024/05/02
2022/5/19
ものづくり補助金は、事業者の革新的な製品・サービス等を開発するための試作品制作や生産性をあげるためのシステム構築にかかる費用を補助する制度であり、印刷業者も応募が可能です。
当記事では「ものづくり補助金に応募しようかな?」と考える印刷業の事業者に向けて、ものづくり補助金の要件や採択事例について解説します。
なお、当記事はものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版をもとに作成しています。
Contents
印刷業は製造業として申請する
印刷業でものづくり補助金に応募する場合、業種は製造業として申請します。
ものづくり補助金の目的に沿った事業で、資本金と従業員数が一定以内であれば、印刷業の事業者はものづくり補助金の対象となります。印刷業は製造業として申請することになり、製造業の資本金と従業員数の要件を満たす必要があります。
【中小企業者と特定事業者の一部の対象となる要件】
中小企業者 | ||
業種 | 資本金 | 常勤従業員 |
製造業 | 3億円 | 300人 |
特定事業者の一部 | ||
製造業10億円未満 | 10億円未満 | 500人 |
ものづくり補助金における特定事業者とは、中小企業者の資本金額よりも大きく、大企業よりは規模の小さな中小企業~中堅企業を指します。
なお、東京都印刷工業組合や全日本印刷工業組合連合会などの印刷業に関わる組合は、ものづくり補助金では対象外となっているので注意しましょう。
ものづくり補助金の基本要件は3つ
ものづくり補助金に応募する印刷業者は、作成する3年~5年の事業計画の中で、3つの基本要件をすべてクリアしなければいけません。要件のほとんどは、従業員の給与・賃金アップについてです。
【ものづくり補助金の基本要件】
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参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
賃上げや付加価値額の向上は難しくみえるかもしれません。しかし、新たに行う設備投資と従業員への給与アップが相乗効果をうむ事業計画を立てられれば、ものづくり補助金の要件を満たすことは可能です。
なお、事業計画の数値目標が達成されない場合、補助金の一部返還または全額返還を求められる可能性があります。ものづくり補助金に申請する際は、自社が確実に達成できると思われる数値を事業計画に記載するように留意しましょう。
ものづくり補助金の補助枠
ものづくり補助金には複数の申請枠があります。2024年に実施された18次公募の場合、省力化(オーダーメイド)枠や製品・サービス高付加価値化枠(通常類型)など全3種類の申請枠がありました。
【ものづくり補助金の補助枠の種類】
省力化(オーダーメイド)枠 |
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補助額 |
補助率 |
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従業員数5人以下 :100万円~750万円 6~20人 :100万円~1,500万円 21~50人 :100万円~3,000万円 51~99人 :100万円~5,000万円 100人以上:100万円~8,000万円
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補助金額が1,500万円まで |
1,500万円を超える部分 |
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製品・サービス高付加価値化枠(通常類型) |
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補助額 |
補助率 |
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従業員数5人以下 :100万円~750万円 6~20人 :100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 |
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製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型(DX・GX) |
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補助額 |
補助率 | |||
従業員数5人以下 :100万円~1,000万円 6~20人 :100万円~1,500万円 |
2/3 | |||
グローバル枠 |
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補助額 |
補助率 | |||
100万円~3,000万円
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参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
応募する申請枠により、補助上限金額や追加要件などが異なります。申請枠を選ぶ際は、印刷業としてどのような事業計画を立てるのかをまず考え、その事業計画にあった補助枠を選びましょう。
省力化(オーダーメイド)枠の補助額と補助率
省力化(オーダーメイド)枠の補助上限額と補助率を紹介します。省力化(オーダーメイド)枠はその名の通り、自社に合った機械設備やシステムを外部のシステムインテグレータ(SIer)にオーダーメイドを依頼する事業者が申請できる枠です。
【省力化(オーダーメイド)枠の概要】
概要 |
ICTやIoT、AI、ロボット、センサー等を活用し、生産工程を自動化するために外部のシステムインテグレータ(SIer)との連携に取り組む事業者向けの申請枠 |
補助額 |
従業員数 5 人以下 :100万円~750万円 6~20人 :100万円~1,500万円 21~50人 :100万円~3,000万円 51~99人 :100万円~5,000万円 100人以上:100万円~8,000万円 |
補助率 |
<補助金額が1,500万円まで> 中小企業:1/2 (小規模企業者・小規模事業者、再生事業者:2/3) <1,500万円を超える部分> 中小企業:1/3 小規模企業者・小規模事業者、再生事業者:1/3 |
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
省力化(オーダーメイド)枠に印刷業者が応募する場合は、現在の印刷業を革新的な事業にするため、システムインテグレータに相談してオーダーメイドの機械設備やシステムを導入する必要があります。
省力化(オーダーメイド)枠はAIやロボットを取り入れた機械装置やシステム導入をする事業者に適しています。最新の技術を印刷業に取り入れたい事業者は、省力化(オーダーメイド)枠からの申請を検討してみましょう。
製品・サービス高付加価値化枠の補助額と補助率
製品・サービス高付加価値化枠は2024年の18次公募から新たに開始された申請枠です。製品・サービス高付加価値化枠には通常類型と成長分野進出類型(DX・GX※)の2つの類型があります。
※DX(デジタルトランスフォーメーション):企業がデジタル技術を駆使して業務、製品、サービスを向上させること
※GX(グリーントランスフォーメーション)気候変動対策の取り組みのひとつで、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡を保つカーボンニュートラルの達成を目指すこと
【製品・サービス高付加価値化枠の概要】
項目 | 通常類型 |
成長分野進出類型(DX・GX) |
概要 |
革新的な製品・サービス開発に取り組む事業者向けの申請枠 |
今後成長が見込まれる分野(DX・GX)に関わる革新的な製品・サービス開発を行う事業者向けの申請枠 |
補助額 |
従業員数5人以下 :100万円~750万円 6~20人 :100万円~1,000万円 21人以上 :100万円~1,250万円 |
従業員数5人以下 :100万円~1,000万円 6~20人 :100万円~1,500万円 21人以上 :100万円~2,500万円 |
補助率 |
中小企業:1/2 小規模企業者・小規模事業者 再生事業者:2/3 新型コロナ回復加速化特例:2/3 |
中小企業:1/2 小規模企業者・小規模事業者 再生事業者:2/3 |
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
通常類型と成長分野進出類型(DX・GX)は、コンセプトや補助額、補助率が異なります。補助金額の上限は成長分野進出類型(DX・GX)の方が高く設定されていますが、DX・GXに関わる開発を行うことが要件となっているため、取り組める事業者が限られる類型となっています。
製品・サービス高付加価値化枠の通常類型は2023年までに実施されていた「通常枠」と内容が似ています。通常枠は革新的な製品・サービスの開発・試作や生産工程の改善に取組む事業者に向けた申請枠で、印刷業での採択事例も複数見受けられました。
一方、成長分野進出類型(DX・GX)の方は国内最大手の凸版印刷がGXに取組むように、事業規模の大きな印刷業者に適した類型と言えるため、申請枠を選ぶ際は留意しましょう。
グローバル枠の補助額と補助率
グローバル展開型枠の補助上限額と補助率を紹介します。グローバル枠は、ものづくり補助金において名称を変えながら継続的に公募されている申請枠です。
【グローバル展開型の概要】
項目 | 通常類型 |
概要 |
海外事業を実施し、国内の生産性を高める取組みに必要な設備・システム投資等を行う事業者向けの申請枠 |
補助額 |
100万円~3,000万円 |
補助率 |
中小企業:1/2 小規模企業者・小規模事業者:2/3 |
参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
グローバル枠は海外直接投資やインバウンド市場開拓など、4つの事業に分かれています。応募の際には、公募要領に書かれた要件をよく読み、自社が要件をクリアするかを確認して申請しましょう。
【グローバル枠の事業ごとの主な要件】
事業 | 要件 |
海外直接投資 |
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海外市場開拓 |
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インバウンド市場開拓 |
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海外事業者との共同事業 |
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参考:ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
ものづくり補助金に申請する流れ
ものづくり補助金に申請する際の流れを紹介します。印刷業の事業者がものづくり補助金に申請してから補助事業を開始するまでには、応募申請に加え、交付申請や経費の支払いがあります。
【ものづくり補助金の申請の流れ】
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ものづくり補助金に応募する印刷業の事業者は、必要書類を揃え、電子申請に必要なGビズプライムアカウントに申請し、パソコンから応募することになります。ものづくり補助金の必要書類については、「ものづくり補助金で申請時に必要な書類の揃え方と記載例」から確認できます。
必要書類の中でも、ものづくり補助金の審査で特に重視されるのは、事業計画書です。
事業計画書では、新たな製品の開発や生産方式、提供方式を事業者がどのように行うのかを記載します。
なお、ものづくり補助金という名前の補助金ですが、製造業だけでなく情報サービス業などのサービス業も対象です。
ものづくり補助金の事業計画書の書き方が知りたい人は、「ものづくり補助金で採択される事業計画書の書き方」を参考にしてみてください。
ものづくり補助金の採択事例
ものづくり補助金では、過去に印刷業に関わる事業計画が採択された事例があります。特に生産性を高める事業計画が多く採択されたように見受けられます。
【印刷業の採択事例】
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参考:採択結果|ものづくり補助金
省力化(オーダーメイド)枠、製品・サービス高付加価値化枠(通常類型・成長分野進出類型(DX・GX) )は、令和5年末の17次公募から新しく追加された補助枠なのでまだ採択事例はありません。
また、グローバル枠は過去にトレーディングカードゲーム製造の内製化で印刷業が採択されています。
この記事のまとめ
ものづくり補助金は、印刷業も対象事業です。印刷業でものづくり補助金に応募する場合、業種は製造業として申請します。応募するには基本要件を3つ満たす必要があります。また、応募する枠によっては追加要件もあるため、事前に確認しましょう。