事業再構築補助金における建設業の採択事例と申請の条件を解説
2023/12/25
2021/5/14
建設業を営んでいる人の中には、事業再構築補助金の利用を検討している人もいますよね。また、事業再構築補助金を建設業でどのように活用できるのかを知りたい人もいるでしょう。
当記事では、事業再構築補助金における建設業の採択事例と申請の条件を解説します。
なお、当記事は第11回事業再構築補助金「公募要領」をもとに作成しています。
建設業の採択事例
建設業の採択事例には、新型コロナウイルスや物価高騰による売上減少のため、異なる事業や業種へ挑戦する取り組みがあります。経営回復のために事業の再構築をしたいと考えている人は、事業再構築補助金の利用を検討してみてください。
事業再構築の種類 | 内容 |
新市場進出
(新分野展開・業態転換) |
<主力事業:リフォーム事業> 【取り組みの背景】
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<主力事業:土木一式工事事業など> 【取り組みの背景】
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<主力事業:建築板金施工事業> 【取り組みの背景】
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業種転換
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<主力事業:ブロックやレンガ工事事業など> 【取り組みの背景】
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<主力事業:建築一式工事やインテリア工事事業など> 【取り組みの背景】
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<主力事業:土木外構工事やビニールハウスの解体事業など> 【取り組みの背景】
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事業転換
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<主力事業:建築関連事業> 【取り組みの背景】
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<主力事業:事業> 【取り組みの背景】
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<主力事業:塗装事業> 【取り組みの背景】
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参考:事業再構築補助金公式サイト「採択結果>(全体版)事業計画の概要」をもとに株式会社SoLaboが作成
たとえば、リフォーム工事を営んでいる事業者が、新型コロナウイルスにより売上減少から回復するため、市場機会が拡大している注文住宅の請負事業へ新たに進出した事例があります。
また、新型コロナウイルスの影響により仕事がなくなった塗装業者が、地元のニーズをくみ取り解体工事業へ事業転換した事例もあります。
事業再構築補助金は、建設業から新分野への展開や、業種および事業の転換に挑戦できます。建設業の他の採択事例が見たい人は「事業再構築補助金の採択事例と取り組みが成果につながった事例を解説」を参考にしてみてください。
なお、事業再構築補助金では、不動産の賃貸のように実質的な労働をともなわない事業は不採択になります。 駐車場経営や金融資産の運用など、資産を所有しているだけで利益が出る事業には活用できないことに留意して、事業計画を考えましょう。
路面標示工事事業から外装材アスベスト除去工事事業への新分野展開
新分野展開の採択事例では、路面標示工事事業から外装材アスベスト除去工事事業へ挑戦した取り組みもあります。2021年にアスベスト飛散防止対策が強化されることで、除去工事業者が不足することを予測し、事業再構築に挑戦しました。
具体的には、アスベスト含有外装材の安全かつ作業負担を減らした除去工法を、自社で確立し、環境改善事業へ参入する取り組みです。「安全性」「省力化」「環境」に配慮し、廃棄物減容化することで、アスベストの脅威のない社会実現を目的としています。
路面標示工事事業から、新たな分野である外装材アスベスト除去工事事業へ挑戦した事例です。新分野への挑戦をしたいと考えている人は、事業再構築補助金の利用を検討してみてください。
建築工事業から不動産のコンサルティング事業への業種転換
業種転換の採択事例には、建築工事業から不動産のコンサルティング事業への転換に挑戦した事例があります。物価高騰による断熱材の変更や、主要取引先のコロナ倒産の影響による売上減少を受けて、新たな業種への転換に挑戦に挑戦しました。
具体的には、遊休不動産の多く集まる地域で、人とまちを結ぶ不動産のコンサルティング事業を実施し、空き家や空き地の流通促進に貢献する取り組みです。「遊休不動産活用コンサルティング事業」や「狭小地活用コンサルティング事業」を展開し、使用されていない不動産を有効活用します。
建築工事業者が、遊休不動産に着目し不動産のコンサルティング事業へ転換した事例です。売上や利益の減少により、おもな業種を変更したいと考えている事業者も、事業再構築補助金の活用を検討してみてください。
注文住宅事業から木製家具事業への事業転換
事業転換の採択事例には、注文住宅事業から木製家具事業への転換に挑戦した取り組みがあります。新型コロナウイルスにより変化した生活様式や、少子高齢化による注文住宅の受注の減少を懸念し、事業再構築に挑戦しました。
具体的には、新型コロナウイルスの影響で家にいる時間が増えたことに注目し、顧客生涯価値を軸に住空間の満足度を高める事業として、建築技術のノウハウを活かして木製家具事業に転換しました。時代の変化に応じた事業に進出し、企業の利益を安定させることが目的です。
既存の事業の先行きを考え、これからの顧客ニーズに合わせた事業を実施するために、思い切った事業再構築をした事例です。業種は変えず、おもな事業の変更を考えている人も、事業再構築補助金の利用を検討してみてください。
建設業における申請の条件
事業再構築補助金を活用する際は、申請の条件を確認しておきましょう。
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申請の際は、補助対象になる経費や事業計画をたてる際にそれぞれの条件を満たす必要があります。事業再構築補助金へ申請を検討している人は、参考にしてみてください。
経費項目にあてはまる費用を申請する
事業再構築補助金において補助対象になる経費は、公募要領に定められている経費項目にあてはまる費用です。建設業においては、油圧ショベルやブルドーザなどの「作業場において作業することを目的とする重機の購入費」や建物の改修費などが補助の対象となります。
経費項目 | 建設業における経費の例 |
①建物費 | 新事業で活用する施設や店舗の建築・改修、建物の撤去など |
②機械装置・システム構築費 (リース料を含む)※1 |
新事業に必要な建設機械や導入するシステムの専用ソフトウェアの 購入費など |
③技術導入費 | ライセンス契約や特許・商標登録のある技術・サービスを導入する ときのライセンス料など |
④専門家経費 | 生産および販売やWEBサイトの運用管理などのコンサルティングを 依頼した場合に発生するコンサル料や専門家への謝金など |
⑤運搬費 | 運搬料、宅配・郵送料など |
⑥クラウドサービス利用費 | 新事業のデジタル改革で活用するWEBツールなどの クラウドサービス利用費 |
⑦外注費 | 新事業に要する商品の加工、設計やWEBサイトデザインなどの 外注費用 |
⑧知的財産権等関連経費 | 商品や技術の特許権に関する士業の手続代行費用など |
⑨広告宣伝・販売促進費 | 新事業のパンフレットや動画などの広告作成、媒体掲載、 展示会出展など |
⑩研修費 | 新事業に必要な教育訓練費、講座受講 などの費用 |
⑪廃業費 ※1 | 廃止手続費、解体費などの費用 |
※1 産業構造転換枠のみ利用可能 |
参考:第11回事業再構築補助金「公募要領」をもとに株式会社SoLaboが作成
たとえば、油圧ショベルやブルドーザなどの重機を購入する場合、重機の購入費は「機械装置・システム構築費」として経費を申請できます。作業場において作業することを目的とする建設機械は、機械装置に該当するためです。
ただし、公道を自走できる自動車や、船舶および航空機の購入費は補助の対象外となります。補助される経費は、あくまで補助事業のみで使用される経費に限られます。
また、施設や工場を建設および改修する場合は「建物費」として経費を申請できます。ただし、自社施工する場合の自社の人件費は補助の対象外となるため、申請の際、自社施工を考えている人は、人件費が補助されないことに留意して事業計画をたてましょう。
事業再構築補助金では、重機の購入費や建物の改修費などが補助対象となります。補助対象になる経費を詳しく知りたい人は「事業再構築補助金における補助対象経費は何か?対象外になる経費も解説」を参考にしてみてください。
なお、建設業許可が必要な規模の建物を経費にする場合に、建設業許可を取得していない業者からの見積もりが発覚した際には、不採択または交付取消となるため注意しましょう。
事業計画をたてる際は事業再構築の定義をひとつ選択する
事業計画をたてる際は、方向性を定めるために事業再構築の定義をひとつ選択します。事業再構築の定義は「新市場進出」「業種転換」「事業転換」「事業再編」の4つの中から選ぶことになります。
定義(類型) | 概要 |
新市場進出 (新分野展開・業態転換) |
おもな業種は変えず、新たな商品やサービスで新たな市場に進出する 例:「建築解体工事事業」の建設業が 新たに「再生砂利製造・販売事業」に進出 |
業種転換 | 既存の業種から新たな業種へ転換する類型 例:建設業から製造業へ転換する (業種は総務省「日本標準産業分類」の大分類を参考) |
事業転換 | おもな業種を変えずに主力の事業を転換する 例:建設業のまま事業を「塗装事業」から 「足場工事事業」へ転換する (事業は総務省「日本標準産業分類」の中分類以下を参考) |
事業再編 | 事業再編を通して事業を再構築する 例:合併や事業譲渡など組織再編したうえで「新市場進出」 「事業転換」「業種転換」に取り組む (事業再編は会社法上の組織再編行為を行う必要がある) |
※国内回帰は第11回公募で公募自体がないため割愛
参考:事業再構築補助金公式サイト「事業再構築指針の手引き」をもとに株式会社SoLaboが作成
新市場進出を選択した場合、新分野への参入や業態の変更に取り組むことになります。たとえば、建設業者が新たに、コンクリート廃材を使った再生砂利の製造や販売を行う取り組みや、土木建設業がICT設備を導入し、防災工事に対応した建設施工体制を構築する取り組みができます。
業種転換を選択した場合は、現在のおもな業種を変更する事業再構築を実施することになります。たとえば、建設・解体工事を営む建設業者が建設業界に特化した情報セキュリティ対策強化サービス事業を行う情報通信業へおもな業種を変更するような取り組みが該当します。
事業転換を選択した場合は、現在のおもな事業を変更する事業再構築を実施することになります。たとえば、塗装業を営む建設業者が、感染症等の影響を受けにくい足場工事業に挑戦する取り組みが該当します。
事業再編を選択した場合は、合併や事業譲渡などの会社法上の組織再編行為を実施してから「新市場進出」「事業転換」「業種転換」のいずれかに取り組む必要があります。事業再構築補助金における会社法上の組織再編行為は「事業再構築指針の手引き(P18)」で確認しましょう。
事業再構築の定義には、それぞれ満たす必要のある要件も定められています。事業再構築の定義ごとの要件が知りたい人は「事業再構築補助金の事業再構築要件とは?類型ごとの要件も解説」を参考にしてみてください。
申請には事業再構築の目的にあった申請枠の選択が必要
申請には、事業再構築の目的にあった申請枠の選択が必要です。事業再構築補助金では、申請枠ごとに補助金額の上限や補助率などの申請要件(申請時に満たす必要のある条件)が決まっているためです。
申請枠 | 概要 |
成長枠 | 成長分野への事業再構築に取り組む申請枠 |
グリーン成長枠 | 研究開発・技術開発または人材育成を実施し、グリーン成長戦略 「実行計画」14分野の課題解決に取り組む申請枠 |
卒業促進枠 | 成長枠・グリーン成長枠の取り組みに加え、企業規模の成長に 取り組める上乗せ支援枠 |
大規模賃金引上促進枠 | 成長枠・グリーン成長枠の取り組みに加え、大規模な賃上げに 取り組める上乗せ支援枠 |
産業構造転換枠 | 国内市場縮小のような構造的な課題解決に取り組む申請枠 |
最低賃金枠 | 最低賃金引上げにおける原資の確保をするための事業再構築に 取り組む申請枠 |
物価高騰対策・回復再生応援枠 | 業況の回復や事業再生、および物価高騰による課題解決に 取り組む申請枠 |
参考:第11回事業再構築補助金「公募要領」をもとに株式会社SoLaboが作成
たとえば、最低賃金引上げのために事業を再構築したい場合は「最低賃金枠」があてはまります。物価高騰の影響を受け、新たな業種や事業に挑戦したい場合は「物価高騰対策・回復再生応援枠」があてはまります。
ただし「卒業促進枠」と「大規模賃金引上促進枠」は上乗せ支援枠であり、成長枠またはグリーン成長枠に申請した人のみが利用できます。また「卒業促進枠」と「大規模賃金引上促進枠」は同時に申請できないため、どちらか一方を選ぶ必要があります。
事業再構築補助金に申請する際は、目的に合った申請枠を選びましょう。また、申請枠を選んだあとは、各申請枠に設定されている申請要件を満たすことも求められます。
事業再構築補助金の申請要件を詳しく知りたい人は「事業再構築補助金における申請要件を解説」を参考にしてみてください。
審査の観点を参考に事業計画をたてる
事業再構築補助金において、採択される事業計画をたてるときは、審査の観点を参考にしましょう。審査の観点には、審査の際に事業計画が要件を満たした適切な内容になっているかの確認事項が記載されています。
事業化点 |
<審査の観点>
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<事業計画に記載する内容>
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再構築点 |
<審査の観点>
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<事業計画に記載する内容>
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政策点 |
<審査の観点>
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<事業計画に記載する内容>
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参考:第11回事業再構築補助金「公募要領」をもとに株式会社SoLaboが作成
事業化点のひとつの「取り組む事業の市場規模やユーザーが明確か」を示すには、公的機関や業界団体などのデータを用いましょう。事業再構築で取り組む事業の市場の様子やユーザー層がわかるグラフや表で、市場規模やユーザーが明確である根拠を示します。
再構築点のひとつの「自社の強み、弱み、機会、脅威を分析したうえで事業再構築の必要性が認識されているか」を示すには、SWOT分析の表を記載しましょう。SWOT分析では、自社内部と外部の環境を分析することにより、取り組む事業が現状の課題解決につながることを示せます。
審査の観点は、事業計画書に記載したからと言って必ず採択されるわけではありません。しかし、審査の観点を参考に事業計画を記載することで、何もしない場合より採択される可能性は上がります。
審査で採択される可能性を上げるため、審査の観点を参考に申請の条件を満たしていることが第3者にもわかるよう、図表を用いて示しましょう。事業計画書の記載例や書き方は「事業再構築補助金の事業計画書の書き方と記入例を解説」を参考にしてみてください。
令和5年度の事業再構築補助金は第12回公募が最後の予定
令和5年度の事業再構築補助金は、次回の第12回公募が最後の予定となっています。第11回公募は10月6日に申請締切が終了しており、次回第12回公募の情報は令和5年12月19日現在、公開されていません。
過去のスケジュールにおいて、第10回公募の申請締切から第11回公募の申請開始までは、6月30日~9月13日の約2か月~3か月でした。そのため、第12回公募の申請開始日は2023年12月~2024年1月頃であることが予想されます。
次回の第12回公募に申請を検討している人は、事業再構築補助金の公式サイト「NEWS」をこまめに確認しておきましょう。
この記事のまとめ
建設業の採択事例には、新型コロナウイルスや物価高騰による売上減少のため、異なる事業や業種へ挑戦する取り組みがあります。ただし、事業再構築補助金では、不動産の賃貸のように資産を所有しているだけで利益が出る事業は、不採択または採択取消になるため注意が必要です。
申請の際は、補助対象になる経費や審査の観点など申請における条件の確認が必要です。また、令和5年度の公募は第12回が最後の予定ですが、第12回公募の情報は令和5年12月19日現在公開されていないため、申請を検討中の人は公式サイトをこまめに確認しましょう。