ものづくり補助金における事業化状況報告の手続きを解説
2024/07/25
2024/7/25
ものづくり補助金を受給した後は、定期的に事業化状況報告を行うことが必要です。補助金の受給後も約6年間にわたって補助事業に関する報告を続けることになるため、事業者の状況によっては、受給した補助金の一部返納が必要となる場合もあります。
当記事では、ものづくり補助金における事業化状況報告の手続きを解説します。補助金返還や収益納付が必要となる条件も紹介するため、ものづくり補助金の事業化状況報告を行う人は参考にしてみてください。
なお、当記事はものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業公募要領(18次締切分)を参考に作成しています。
Contents
事業化状況報告は入金後の状況を報告する手続き
ものづくり補助金における事業化状況報告は入金後の状況を報告する手続きです。事業化状況報告では、「事業化の進捗」「収益額」「賃上げ」などの状況を事務局に報告することになるため、事業化状況報告の項目を確認してみましょう。
項目 |
概要 |
事業化状況・知的財産権等報告書 |
事業化の有無や知的財産権の取得状況などを入力する |
事業化状況等の実態把握調査票 |
事業化の進捗状況や収益額などを入力する |
返還計算シート |
補助金返還が必要な場合に返還額を入力する |
直近の決算書 |
「損益計算書」「販売費及び一般管理費明細表」などの決算書を添付する |
報告する年の3月分の賃金台帳 |
3月分の賃金台帳を添付する |
参考:事業化状況・知的財産権等報告|ものづくり補助金
項目のひとつは「事業化状況・知的財産権等報告書」です。事業化状況・知的財産権等報告書は「事業化の有無」「知的財産権の取得状況」「事業場内最低賃金の額」などの情報を記載することにより、入金後における事業者の状況を明確にします。
また、項目のひとつは「事業化状況等の実態把握調査票」です。事業化状況等の実態把握調査票は「資本金や付加価値額を示す表」や「補助事業における収益額を示す表」などの情報を入力することにより、事業化の進捗状況や補助事業の成果物の販売状況を明確にします。
なお、事業化状況報告は「事業化状況・知的財産権等報告システム」に入力します。決算書と賃金台帳はPDF化してシステム上に添付し、他の報告項目はシステムの該当欄に入力することになるため、事業化状況報告を行う人は事業化状況・知的財産権等報告システムを確認してみましょう。
事業化状況報告は計6回行う
事業化状況報告は計6回行うことが必要です。初回の事業化状況報告を行う時期は補助金額が確定した月によって異なりますが、初回の報告後は年に一度の報告を5回繰り返すことになります。
補助金額が確定した月 |
事業化状況報告を行う時期 |
2025年2月末まで |
1回目 2025年4月1日~5月31日 2回目 2026年4月1日~5月31日 3回目 2027年4月1日~5月31日 4回目 2028年4月1日~5月31日 5回目 2029年4月1日~5月31日 6回目 2030年4月1日~5月31日 |
2025年3月以降 |
1回目 2026年4月1日~5月31日 2回目 2027年4月1日~5月31日 3回目 2028年4月1日~5月31日 4回目 2029年4月1日~5月31日 5回目 2030年4月1日~5月31日 6回目 2031年4月1日~5月31日 |
参考:事業化状況報告のタイミング|ものづくり補助金
たとえば、2025年2月末までに補助金額が確定した事業者の場合、初回の報告は2025年4月1日から5月31日までの間に行います。その後は毎年4月1日から5月31日までの間に報告を行い、2030年の報告が最後になります。
また、2025年3月以降に補助金額が確定した事業者の場合、初回の報告は2026年4月1日から5月31日までの間に行います。その後は毎年4月1日から5月31日までの間に報告を行い、2031年の報告が最後になります。
なお、事業計画年数に関わらず、事業化状況報告は計6回の報告が必須です。賃上げ要件に関する判断は事業計画期間中のみが対象となりますが、すべての事業者が6回の事業化状況報告をしなければならないため、ものづくり補助金を受給した人は留意しておきましょう。
事業化状況報告書の項目を確認する
事業化状況報告を行う場合は「事業化状況・知的財産権等報告書」の項目を確認してみてください。事業化状況・知的財産権等報告書は入金後の事業者の状況を事務局に報告する内容となり、複数の記載項目が定められています。
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事業化状況・知的財産権等報告書の項目には「事業化状況」「知的財産権」「給与支給総額」「事業場内最低賃金」が挙げられます。必要となる情報を把握しておかなければ、期限内に報告が完了できないことも考えられるため、事業化状況報告を行う人は各項目の概要を押さえておきましょう。
事業化状況の報告
事業化状況・知的財産権等報告書の項目のひとつは「事業化状況」です。補助事業の事業化の進捗状況や収益額を報告する項目となるため、事業化状況報告を行う人は事業化状況の報告内容を確認してみましょう。
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参考:交付規程に基づき全国中央会が定める様式(p.36)|ものづくり補助金
事業化状況の報告では、補助事業の実施成果について事業化の有無を記載します。事業化ができている場合は「有」を選択し、まだ事業化ができていない場合は「無」を選択することになります。
事業化状況の報告では、報告年度の収益額を記載します。補助事業の成果となる製品やサービスによる収益がある場合や知的財産権の譲渡や実施権設定による収益がある場合は収益額を記載することになります。
なお、それぞれの金額の算出方法はものづくり補助金の補助事業の手引き(18次締切)に記載されています。「本年度収益額」「控除額」など、各金額の算出方法を知りたい人は補助事業の手引きを確認してみましょう。
収益納付が必要な場合は納付額を算出する
一定の収益額がある場合は収益納付が必要です。「補助事業の成果を活用した販売」「知的財産権の取得」などにより、一定の収益がある場合は補助金額を上限として補助金の一部を収益納付することになるため、収益があるときは納付額の算出方法を押さえておきましょう。
項目 |
計算式 |
基準納付額 |
(収益額-控除額)×補助金額/本年度までの補助事業に係る支出額 |
本年度納付額 |
「本年度納付額=基準納付額」
「本年度納付額=補助金額―累計納付額」 |
参考:補助事業の手引き(18次締切)|ものづくり補助金
収益納付は累積の収益額が控除額(補助事業に要した経費のうちの自己負担額)を上回った場合に必要となります。「収益額―控除額」がプラスの金額になる場合は、その金額に「補助金額/本年度までの補助事業に係る支出額」を掛けることにより、納付額を算出できます。
算出方法の例として「収益額が1,000万円」「控除額が600万円」「補助金額/本年度までの補助事業に係る支出額=1/2」と仮定します。この場合は「(1,000万円-600万円)×1/2」の計算式から、その年度の納付額が200万円と算出できます。
なお、収益納付は免除規程があります。「決算が赤字の場合」「給与支給総額を年平均成長率3%以上増加させた場合」「最低賃金を地域別最低賃金+90円以上の水準にした場合」など、収益納付が免除されることがあるため、収益納付をするときは免除規程を確認してみましょう。
知的財産権の報告
事業化状況・知的財産権等報告書の項目のひとつは「知的財産権」です。知的財産権等の取得状況を報告する項目となるため、事業化状況報告を行う人は知的財産権の報告内容を確認してみましょう。
<出願中や取得済みの件数がある場合>
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参考:交付規程に基づき全国中央会が定める様式(p.37)|ものづくり補助金
知的財産権の報告では、まずは知的財産権等の件数を記載します。記載の対象となるのはその年度分のみではなく、交付決定後から報告対象年度終了時点までのすべての案件となり、「出願中」と「取得済み」に分けて件数を記載することになります。
知的財産権の報告では、知的財産権の内容を記載します。出願中や取得済みの知的財産権がある場合は「特許権」「実用新案権」「意匠権」「著作権」といった知的財産権の種類や出願日などの情報を記載することになります。
なお、知的財産権の譲渡や実施権の設定を行った場合は備考欄に記載が必要です。「相手先」「契約日」「金額」などの具体的な情報を備考欄に書かなければならないため、知的財産権の譲渡や実施権の設定を行った場合は備考欄への記載を行いましょう。
給与支給総額の報告
事業化状況・知的財産権等報告書の項目のひとつは「給与支給総額」です。賃上げ要件に含まれている給与支給総額の増加状況を報告する項目となるため、事業化状況報告を行う人は給与支給総額の報告内容を確認してみましょう。
項目 |
概要 |
報告内容 |
公募申請時の給与支給総額 直近決算の給与支給総額 事業計画年数 |
成長率の計算式 |
(直近決算の給与支給総額-公募申請時の給与支給総額)÷公募申請時の給与支給総額×100÷事業計画年数 |
目標達成の可否 |
事業計画終了時点の成長率≧1.5の場合は達成 |
参考:交付規程に基づき全国中央会が定める様式(p.37)|ものづくり補助金
給与支給総額の報告では、直近決算の給与支給総額を記載します。給与支給総額は全従業員に支払った「給料」「賞与」「各種手当」などの合計額となるため、直近の決算書を確認しながら記載することになります。
給与支給総額の報告では、給与支給総額の成長率を記載します。「(直近決算の給与支給総額-公募申請時の給与支給総額)÷公募申請時の給与支給総額×100÷事業計画年数」の計算式から成長率を算出し、基本要件の「年平均成長率1.5%以上増加」を達成しているかどうかを確認することになります。
なお、給与支給総額の目標達成の判断は事業計画期間終了時の一度のみです。給与支給総額の報告は毎年行いますが、事業計画期間終了時の成長率が「1.5×事業計画年数」を上回っているかどうかによって判断されるため、事業化状況報告を行う人は覚えておきましょう。
ものづくり補助金における給与支給総額の情報を知りたい人は「ものづくり補助金の給与支給総額に含まれる費用と計算方法を解説」を参考にしてみてください。
給与支給総額が目標未達の場合は返還額を算出する
給与支給総額が基本要件の目標を満たしていない場合は補助金の返還が必要です。事業計画終了時における給与支給総額の年平均成長率が1.5%未満となった場合は補助金の一部を返還することになるため、目標未達のときは返還額の算出方法を確認してみましょう。
返還額=以下のうちの安い方の金額×補助金額/補助対象設備の購入額
|
参考:交付規程に基づき全国中央会が定める様式(p.43)|ものづくり補助金
返還額を算出する場合、まずは「補助対象設備の時価」と「補助対象設備の残存簿価」を確認します。時価は2社以上の買い取り業者による見積り金額のうちの最も高い金額となり、残存簿価は購入額から減価償却費を引いた金額となります。
算出方法の例として「時価が150万円」「残存簿価が140万円」「補助金額/購入額が1/2」と仮定します。その場合は「140万円×1/2」の計算式から、返還額は70万円と算出できます。
なお、給与支給総額が目標未達の場合、補助金返還の免除規程があります。「給与支給総額の年平均成長率が付加価値額の年平均成長率の1/2を越えている場合」「天災などの理由がある場合」は補助金返還が免除される可能性があるため、補助金返還をするときは免除規程を確認してみましょう。
事業場内最低賃金の報告
事業化状況・知的財産権等報告書の項目のひとつは「事業場内最低賃金」です。賃上げ要件に含まれている事業場内最低賃金の増加状況を報告する項目となるため、事業化状況報告を行う人は事業場内最低賃金の報告内容を確認してみましょう。
項目 |
概要 |
報告内容 |
地域別最低賃金 事業場内最低賃金計画(地域別最低賃金に30円を足した金額) 報告年の3月の事業場内最低賃金 |
目標達成の可否 |
事業場内最低賃金-地域別最低賃金≧30の場合は達成 |
参考:交付規程に基づき全国中央会が定める様式(p.37)|ものづくり補助金
事業場内最低賃金の報告では、報告する年の3月の事業場内最低賃金を記載します。事業場内最低賃金は補助事業場内において一番低い賃金の時給換算額となるため、時給換算額を算出して記載することになります。
事業場内最低賃金の報告では、地域別最低賃金に30円足した金額を記載します。地域別最低賃金は毎年10月ごろに改定されるため、改定後の地域別最低賃金に30円を足した金額を算出し、基本要件の「事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上の水準」を達成しているかどうかを確認することになります。
なお、事業場内最低賃金の目標達成の判断は毎年行われます。毎年3月分の事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準であるかどうかを判断されるため、事業化状況報告を行う人は覚えておきましょう。
事業場内最低賃金が目標未達の場合は返還額を算出する
事業場内最低賃金が基本要件の目標を満たしていない場合は補助金の返還が必要です。毎年の事業化状況報告において事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高くできていない場合は補助金の一部を返還することになるため、目標未達のときは返還額の算出方法を確認してみましょう。
返還額=補助金額÷事業計画年数 |
返還額を算出する場合、「補助金額」と「事業計画年数」を確認します。補助金額を事業計画年数で割ることにより、その年の返還額を算出できます。
算出方法の例として「5年間の事業計画のうち4年目に目標未達」「補助金額は1,000万円」と仮定します。この場合は「1,000万円÷5」の計算式から、返還額は200万円と算出できます。
なお、事業場内最低賃金が目標未達の場合、補助金返還の免除規程や猶予があります。「返還が免除される場合」や「判断猶予を希望できる場合」があるため、目標未達の場合はものづくり補助金の公式サイトの「返還に関する判定猶予と免除規程」を確認してみましょう。
賃金台帳の書き方も押さえておく
事業化状況報告を行う人は賃金台帳の書き方も押さえておきましょう。事業化状況報告を行うときは、「従業員全員の賃金台帳」と「事業場内最低賃金で働く従業員の賃金台帳」の2種類の賃金台帳を提出することになります。
項目 |
記入例 |
氏名 |
〇〇 |
賃金計算期間 |
令和5年3月 |
労働日数 |
22日 |
労働時間数 |
176時間 |
休日労働時間数 |
0 |
残業時間数 |
12時間 |
深夜労働時間数 |
0 |
基本給 |
220,000円 |
時間外割増賃金 |
24,000円 |
深夜労働割増賃金 |
0 |
通勤手当 |
6,000円 |
資格手当 |
10,000円 |
時給換算額 |
1,306円 (基本給220,000円+対象手当10,000円) ÷労働時間数176時間 |
参考:賃金台帳の提出方法|ものづくり補助金
賃金台帳を作成するときの留意点のひとつは、報告する年の3月の賃金台帳である旨を記載することです。3月の記載がない場合は「賃金計算期間の最終日が3月1日から3月31日の間であること」「支給日が3月1日から3月31日の間であること」の記載が必要です。
賃金台帳を作成するときの留意点のひとつは、事業場内最低賃金で働く従業員の時給換算額の計算式を記載することです。事業場内最低賃金で働く従業員の賃金台帳には、「(基本給+対象手当)÷労働時間数」に実際の数字を当てはめた計算式の記載が必要です。
なお、賃金台帳はPDF化して事業化状況・知的財産権等報告システムに添付します。定められた様式はなく、事業者が独自の賃金台帳を作成して添付することになるため、事業化状況報告を行うときは事前に2種類の賃金台帳を準備しておきましょう。
この記事のまとめ
ものづくり補助金における事業化状況報告は入金後の状況を報告する手続きです。事業化状況報告では、「事業化の進捗」「収益額」「賃上げ」などの状況を事務局に報告することになるため、事業化状況報告の手続き内容を確認してみてください。
事業化状況報告は事業計画年数に関わらず6回の報告が必須です。賃上げ要件に関する判断は事業計画期間中のみが対象となりますが、すべての事業者が6回の事業化状況報告をしなければならないため、事業化状況報告を行うときは留意しておきましょう。
なお、ものづくり補助金は補助金の一部を返納する「収益納付」や「補助金返還」の規程があります。一定の収益が出た場合は収益納付が必要となり、賃上げ要件を達成できなかった場合は補助金返還が必要となるため、事業化状況報告を行う人は交付規程を確認してみてください。