補助金ガイド

ものづくり補助金における付加価値額の要件を解説

2024/06/14

2024/6/13

この記事の監修

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者田原広一(たはら こういち)

融資支援実績6,000件超、補助金申請支援実績1,300件超、事業再構築補助金採択支援件数は第4回~第8回まで5回連続で日本一を獲得。 『小規模事業者持続化補助金』、『事業再構築補助金』、『IT導入補助金』は自社での申請・採択も経験。「補助金ガイド」LINE公式アカウントでは約4万人の登録者に情報発信を実施。

ものづくり補助金を申請するときは「付加価値額の要件」を満たす必要があります。付加価値額は基本要件のひとつであり、付加価値額の要件の内容を理解しておかなければ、ものづくり補助金の申請要件を満たしていない事業計画を作成してしまうおそれがあります。

当記事では、ものづくり補助金における付加価値額の要件を解説しています。付加価値額の算出方法や算出根拠を解説しているため、ものづくり補助金の申請を検討している人は参考にしてみてください。

なお、当記事はものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業公募要領(18次締切分)を参考に作成しています。

付加価値額の要件は基本要件のひとつ

ものづくり補助金における付加価値額の要件は基本要件のひとつです。ものづくり補助金は設備投資によって省力化や省人化を図る取り組みを支援する性質上、事業の成長率を評価する指標となる付加価値額に対して目標値を設定しています。

【ものづくり補助金における付加価値額の要件】
  • 事業計画期間中に、事業者全体の付加価値額を年平均成長率 3%以上増加させること
  • 付加価値額の増加目標を達成するための3年~5年の事業計画書を策定すること

参考:公募要領 18次締切分(p.14)|ものづくり補助金

ものづくり補助金における付加価値額の要件は「事業計画期間中に事業者全体の付加価値額を年平均成長率3%以上増加させること」です。補助事業を実行した結果として、事業全体が規定の水準まで成長していることが求められます。

ものづくり補助金における付加価値額のもうひとつの要件は「付加価値額の増加目標を達成するための3年~5年の事業計画書を策定すること」です。目標に向けた行動の計画性や実現可能性を示すために、事業計画書を策定することが求められます。

なお、付加価値額の確認は事業計画終了後の1度のみです。事業計画終了時点での付加価値額の年平均成長率が規定の水準に達していない場合は、要件が未達となることを念頭に置いておきましょう。

付加価値額の算出方法は事業形態によって異なる

付加価値額は事業形態によって算出方法が異なります。「決算申告書」「青色申告書」など、付加価値額は税務申告上の数字をもとに算出するため、事業者の税務申告の方法によって付加価値額の計算式が異なります。

【事業形態ごとの付加価値額の計算式】

事業形態

計算式

法人の場合

営業利益+人件費+減価償却費

個人事業主

営業利益(㉝+㉒)+減価償却費+福利厚生費+給料賃金

参考:公募要領 18次締切分(p.14よくある質問p.3)|ものづくり補助金

法人の場合、付加価値額は「営業利益+人件費+減価償却費」の計算式から算出します。「製造原価の減価償却費」「給与手当」など、決算書にある損益計算書の勘定科目を足していくことにより、付加価値額を算出できます。

個人事業主の場合、付加価値額は「営業利益(㉝+㉒)+減価償却費+福利厚生費+給料賃金」の計算式から算出します。青色申告書にある費目番号の項目を足していくことにより、付加価値額を算出できます。

なお、個人事業主の場合、「㊳専従者給与」「㊸青色申告特別控除前の所得金額」の項目は付加価値額に含めません。この2項目は付加価値額を算出するときの人件費には含めないため、個人事業主が付加価値額を算出するときは留意しましょう。

付加価値額は電子申請するときに自動算出される

付加価値額は電子申請するときに自動算出されます。事業計画書の数値を入力すると、「付加価値額」「付加価値額の伸び率」「付加価値額の年平均成長率」の値は自動算出されるため、電子申請するときは自身での計算が不要となります。

【電子申請時に入力する画面のイメージ】

項目

基準年度

1年後

2年後

3年後

①    売上高

45,000,000

46,350,000

47,740,500

49,172,715

②    営業利益

4,000,000

4,120,000

4,243,600

4,370,908

③    営業外費用

100,000

100,000

100,000

100,000

④    経常利益

3,900,000

4,020,000

4,143,600

4,270,908

⑤    人件費

28,000,000

29,000,000

29,700,000

30,600,000

⑥    減価償却費

7,000,000

7,500,000

7,400,000

7,500,000

付加価値額
(②+④+⑤)

35,900,000

37,140,000

38,087,200

39,241,816

伸び率

3.45%

2.55%

3.03%

年平均成長率

 

 

 

3.014%

参考:電子申請システム操作マニュアル_18.0p.26)|ものづくり補助金

電子申請では、事業計画を電子システム上に手入力します。「①売上高」「②営業利益」「③営業外費用」「④経常利益」「⑤人件費」「⑥減価償却費」を入力することにより、付加価値額と付加価値額の伸び率、年平均成長率が自動算出されます。

付加価値額の要件は「年平均成長率が3%以上増加すること」です。事業計画終了時点での年平均成長率のみ確認されるため、途中年度の付加価値額の伸び率が3%を下回っていた場合であっても、事業計画終了時点での年平均成長率が3%以上ならば要件を満たせます。

なお、基準年度の付加価値額がマイナスの場合も入力できます。基準年度の営業利益が赤字の場合は付加価値額もマイナスになる可能性がありますが、伸び率や年平均成長率は絶対値をとるため、電子申請システム上はマイナスにならずに入力できることを留意しておきましょう。

事業計画書には付加価値額の算出根拠も示す

ものづくり補助金を申請するためには、事業計画書に加え、付加価値額の算出根拠を示した書類の提出が求められます。事業計画書に記載された付加価値額の算出根拠として、付加価値額の算出に使用した勘定科目の内訳を記した書類を添付することになるため、該当する勘定科目の例を確認してみましょう。

【付加価値額の算出に使用した勘定科目例】
  • 営業利益
  • 人件費
  • 減価償却費

    付加価値額の算出根拠として内訳が求められている項目は「営業利益」「人件費」「減価償却費」が挙げられます。個人事業主の場合は算出に使用する勘定科目が一部異なるため、必要に応じ、算出に使用した勘定科目すべての内訳を示すようにしましょう。

    営業利益

    付加価値額の算出に使用する勘定科目のひとつは「営業利益」です。営業利益は「売上高」から「売上原価」「一般管理費」を差し引いたものとなるため、営業利益の算出根拠を提示するときは「売上原価」「一般管理費」の内訳を示すことになります。

    【営業利益の算出根拠の提示例】

    項目

    基準年度

    1年後

    2年後

    3年後

    売上高

    45,000,000

    46,350,000

    47,740,500

    49,172,715

    製造原価
    (売上原価)

    41,000,000

    42,230,000

    43,496,900

    44,801,807

     材料費

    16,400,000

    16,892,000

    17,398,760

    17,920,693

     労務費

    14,350,000

    14,780,500

    15,224,915

    15,683,662

     外注加工費

    4,100,000

    4,223,000

    4,349,690

    4,480,181

     減価償却費

    3,280,000

    3,378,400

    3,479,752

    3,584,145

     その他製造経費

    2,870,000

    2,955,100

    3,043,783

    3,135,554

    一般管理費

    35,000,000

    36,500,000

    37,100,000

    38,100,000

     役員報酬

    3,500,000

    3,650,000

    3,710,000

    3,810,000

     給与手当

    14,000,000

    14,600,000

    14,840,000

    15,240,000

     賞与

    3,500,000

    3,650,000

    3,710,000

    3,810,000

     福利厚生費

    3,500,000

    3,650,000

    3,710,000

    3,810,000

     減価償却費

    7,000,00

    7,500,000

    7,400,000

    7,500,000

     その他経費

    3,500,000

    3,750,000

    3,730,000

    3,930,000

    営業利益を算出するためには「製造原価(売上原価)」を提示する必要があります。「材料費」「労務費」「外注加工費」など、製造にかかる費用の内訳を明示することにより、営業利益の算出根拠を示すことができます。

    また、営業利益を算出するためには「一般管理費」を提示する必要があります。「給与手当」「減価償却費」「福利厚生費」など、販売にかかる費用の内訳を明示することにより、営業利益の算出根拠を示すことができます。

    なお、特記事項があると判断した場合は、文章での補足も検討しましょう。算出根拠の示し方に決まりはないため、説明が不足している部分があるならば、計画数値の提示だけでなく、状況に応じて文章や図表などを用いて補記することも検討してみましょう。

    人件費

    付加価値額の算出に使用する勘定科目のひとつは「人件費」です。「福利厚生費」「給与所得」など、人件費は複数の項目から構成されるため、人件費の算出根拠を提示するときは人件費を構成する項目の内訳を示すことになります。

    【人件費を構成する項目例】

    • 役員報酬
    • 給与所得
    • 賞与
    • 福利厚生費
    • 法定福利費

    人件費を構成する項目として「給与所得」が挙げられます。「既存の従業員への給与を増加させる」「新規の従業員を雇用する」など、事業計画期間の給与変動を予想し、給与所得の計画数値に反映させることにより、人件費の算出根拠を示すことができます。

    人件費を構成する項目として「法定福利費」が挙げられます。「健康保険料」「厚生年金」などの従業員数に応じて負担が異なる勘定科目は、事業計画期間の従業員数の変動を予想し、法定福利費の計画数値に反映させることにより、人件費の算出根拠を示すことができます。

    なお、人件費は賃上げ要件にも影響を及ぼします。「給与支給総額」「事業場内最低賃金」などの賃上げ要件も満たさなければならないため、人件費の算出根拠を示すときは賃上げ要件も考慮した内訳を記すことを留意しておきましょう。

    減価償却費

    付加価値額の算出に使用する勘定科目のひとつは「減価償却費」です。減価償却費は「既存設備」に加え、「新規設備」も含めて計上するため、減価償却費の算出根拠を提示するときは事業計画期間に保有するすべての設備の減価償却費の内訳を示すことになります。

    【減価償却費の内訳例】

    項目

    基準年度

    1年後

    2年後

    3年後

    減価償却費
    (一般管理費)

    7,000,000

    7,500,000

    7,400,000

    7,500,000

    減価償却費
    (製造原価)

    3,280,000

    3,378,400

    3,479,752

    3,584,145

    設備投資額
    (新規設備の購入)

    0

    5,000,000

    0

    0

    減価償却費は設備によって計上方法が異なります。「製造原価に含まれている場合」「一般管理費に含まれている場合」があるため、それぞれの減価償却費の推移を明示することにより、減価償却費の算出根拠を示すことができます。

    減価償却費は既存設備と新規設備のどちらも計上します。「新規導入した設備の減価償却費」「買い替えした設備の減価償却費」など、事業計画期間での設備の導入計画に合わせた減価償却費を計上することにより、減価償却費の算出根拠を示すことができます。

    なお、減価償却費の算出は税理士に相談する方法もあります。これまでの減価償却の経緯や計算方法などは顧問税理士が把握しているため、ものづくり補助金を申請するときは減価償却費の算出根拠の示し方を相談することも検討してみましょう。

    要件が未達の場合は補助金の返還が求められる可能性がある

    付加価値額の要件が未達の場合は、補助金の返還が求められる可能性があります。公募要領では、基本要件が未達の場合、補助金の返還規定が定められているため、基本要件のひとつである付加価値額の要件が未達の場合は補助金を返還する可能性があります。

    【基本要件未達の場合の補助金返還に関する規定】

    項目

    規定内容

    給与支給総額が未達の場合

    補助金の一部返還を求める

    ※付加価値額が伸びなかった場合はこの限りではない

    事業場内最低賃金が未達の場合

    補助金の一部返還を求める

    ※付加価値額が伸びなかった場合はこの限りではない

    参考:公募要領 18次締切分(p.14)|ものづくり補助金

    公募要領によると、付加価値額の要件が未達の場合の補助金返還に関する規定は明記されていません。付加価値額の要件が未達の場合の返還義務は明記されていないものの、付加価値額は基本要件のひとつとなるため、未達の場合は補助金を返還する可能性があります。

    また、付加価値額は人件費が含まれていることから、「給与支給総額」「事業場内最低賃金」の伸び率と連動する傾向にあります。付加価値額が未達となるならば、賃上げ要件も未達となる場合があるため、規定に従って補助金を返還する可能性があります。

    なお、基本要件の達成状況は「事業化状況報告」により行います。補助事業の完了後、事業計画期間中は年に1度、事業化状況報告を行うため、付加価値額を含めた基本要件の達成状況を報告しなければならないことを留意しておきましょう。

    この記事のまとめ

    ものづくり補助金における付加価値額の要件は「事業計画期間中に事業者全体の付加価値額を年平均成長率3%以上増加させる計画を策定し、実行すること」です。補助事業を実行した結果として、事業全体が規定の水準まで成長していることが求められます。

    付加価値額は事業形態によって算出方法が異なります。「決算申告書」「青色申告書」など、付加価値額は税務申告上の数字をもとに算出するため、事業者の税務申告の方法によって付加価値額の計算式が異なります。

    付加価値額を算出するときは、算出根拠を示した書類の提出が求められます。「営業利益」「人件費」「減価償却費」など、付加価値額の算出に使用した勘定科目の内訳を示すことが求められるため、それぞれの勘定科目を算出にするに至った経緯を説明できるようにしましょう。

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