小規模事業者持続化補助金における販路開拓とは?事例も交えて解説
2024/04/10
2022/11/18
小規模事業者持続化補助金の申請を検討する人の中には、補助金の趣旨である「販路開拓の取り組み」とは何をすれば良いのかと難しく感じる人もいますよね。また、販路開拓の事例から具体的な取り組みをイメージしたいと考えている人もいるのではないでしょうか。
当記事では、小規模事業者持続化補助金における販路開拓を解説します。実際に補助金審査で採択された事業者の事例も交えて解説するので、販路開拓の取り組みに関する具体例を知りたい人は参考にしてみてください。
なお、当記事は小規模事業者持続化補助金の「公募要領」と中小企業庁の公式サイト「ミラサポplus」をもとに作成しています。
Contents
販路開拓とは新たな顧客の獲得に向けて販売経路を広げること
販路開拓とは、新たな顧客の獲得に向けて「販売経路」を広げていくことです。小規模事業者持続化補助金は、販路開拓の取り組みや、販路開拓にあわせて行う生産性向上(業務効率化)につながる取り組みを支援する補助金制度です。
しかし、どのように販路開拓を進めるか迷う場合は、商品やサービスが顧客に届くまでの経路である「チャネル」を確認しておきましょう。チャネルを確認することにより、販路開拓の方向性や具体的な施策をイメージしやすくなるためです。
【商品やサービスが顧客に届くまでの経路】
販売経路 |
概要 |
コミュニケーションチャネル |
消費者に直接または間接的に自社商品やサービスを紹介するチャネル <例> テレビ、雑誌、新聞などのマスメディア、看板、WEB広告、ポスティングチラシ、SNS |
流通チャネル |
商品やサービスを消費者に届けるチャネル <例> 卸売業者、運送業者、物流業者、小売業者 |
販売チャネル |
商品やサービスを消費者に販売するチャネル <例> 小売店、ECサイト、訪問販売 |
販路開拓に取り組む際は、どのチャネルで自社の商品やサービスを売り込んでいくことが新規顧客の獲得に向けてより効果的かを考えてみましょう。
たとえば、コミュニケーションチャネルの方法の1つに、新商品の宣伝に向けた「ポスティングチラシの作成」があります。作成するチラシに割引クーポンや店舗情報へ繋がるQRコードなどを掲載することで集客を狙える可能性があります。
また、流通チャネルにおいては飲食店における「デリバリーサービスの導入」が一例として挙げられます。外出が難しい高齢者からの需要や、近年のデリバリーサービスのブームに着目した市場への参入で販路開拓につながる可能性があります。
販売チャネルにおける販路開拓は、商品やサービスを販売する「場」を増やすことです。実店舗のみでの販売に加えて、ECサイト制作によるネットショップの開設や百貨店、イベントなどの市場にも参入することで販路開拓につながる可能性があります。
小規模事業者持続化補助金を申請する人は、補助金を利用してどのように販路開拓を実現するのかを具体化した「補助事業計画」を立てることになります。その際、販路開拓にあわせた業務効率化のために購入するものや契約するサービスが必要な場合は計画に組み込みましょう。
なお、無料診断では小規模事業者持続化補助金の対象となるか、事業内容や業種からどのような経費に使えるか、いくらくらい受け取れそうかを無料で診断できます。自社が活用できる補助金を探している人は診断してみてください。
無料診断販路開拓につながる10種類の経費項目が補助対象となる
小規模事業者持続化補助金を申請する際は、販路開拓につながる10種類の経費項目が補助対象となります。事業計画の実施に必要な経費はどの経費項目として申請できるのかを確認しておきましょう。
【請する補助事にの補助対象経費】
補助対象経費項目 |
概要・利用例 |
①機械装置等費 |
補助事業の遂行に必要な製造装置の購入などの経費 例:店舗のショーケースや業務用オーブンの購入費用 |
②広報費 |
新サービスを紹介するチラシ作成・配布、看板の設置などの経費 例:ポスティング用広告チラシの作成、LED内照の看板製作・設置費用 |
③ウェブサイト関連費 |
ウェブサイトやECサイトなどの構築、更新、改修、開発、運用に係る経費 例:集客から受注に繋がる自社サイト制作、ターゲットを絞ったリスティング広告 |
④展示会等出展費 |
展示会・商談会の出展料に係る経費 例:建築・建材展、食品展、農業商談会などの出展料 |
⑤旅費 |
販路開拓(展示会などの会場との往復を含む)を行うための旅費 例:商品開発における材料の買付けや展示会等出展費と合わせた会場の往復にかかる交通費・宿泊費 |
⑥開発費 |
新商品の試作品開発に伴う経費 例:新商品や商品パッケージなどの試作に必要な原材料、デザイン、加工費用 |
⑦資料購入費 |
補助事業に関連する資料・図書にかかる経費 例:新商品や新サービスに関する専門書籍や業界レポートの購入 |
⑧借料 |
機器・設備のリース・レンタル料(所有権移転を伴わないもの) 例:イベント出展に使用する機器やワゴン販売を実施する際の車両のレンタル料 |
⑨設備処分費 |
新サービスを行うためのスペース確保を目的とした設備処分に係る経費 例:店舗内にイートインスペースを設置するための古い機材の撤去費用 |
⑩委託・外注費 |
店舗改装など自社では実施困難な業務を第3者に依頼する経費(契約必須) 例:内装・外装工事、インフルエンサーによる商品紹介の依頼料 |
参考:第15回「公募要領」|小規模事業者持続化補助金
たとえば、農業における販路開拓の取り組みでは、防除作業や肥料散布の業務効率化をはかるためのドローンを導入した事例があります。ドローン購入は「機械装置等費」の経費項目に該当します。
また、収穫時に出る規格外の農産物を利用した商品開発を行い、加工品としての商品化を実現した事例もあります。商品開発と商品化の取り組みは「開発費」の経費項目に該当します。
さらに、自社ECサイトを構築したことにより、24時間営業のネットショップを新たな販路として設けた事例もあります。ECサイトの構築は「ウェブサイト関連費」の経費項目に該当します。
小規模事業者持続化補助金を申請する際は、補助事業の実施に必要な経費に該当する経費項目を組み合わせて申請することになります。特にウェブサイト関連費と設備処分費に関しては単独での申請ができないため、必ずほかの経費と合わせての申請が必要です。
なお、車やパソコンなど補助事業以外でも使えるような汎用性の高いものの経費は補助対象外となるため留意しておきましょう。対象外となる経費は、公募要領のP.14〜に詳しく記載されています。
小規模事業者持続化補助金を活用した販路開拓の事例
小規模事業者持続化補助金を活用した販路開拓の事例は、中小企業庁の公式サイト「ミラサポplus」にて探すことができます。サイト内の「事例を探す(事例ナビ)」のなかで「検索ワード」を入力することで、検索ワードに該当する事例を探すことが可能です。
たとえば、検索ワードに「飲食業」「キッチンカー」などのキーワードを入力することで、自身の目指す販路開拓に近い内容の事例を探せます。実際に採択された事業者の取り組み内容や取り組み後の効果も紹介されているため、事業計画をたてる際の参考資料として活用できます。
【業種別の採択事例】
業種 |
活用事例 |
農業 |
<取り組み内容> 米消費量の少ない若い女性をターゲットに美容効果のある新製品を開発し、フードメッセに出品。土鍋を用いた写真でインスタ映えを意識した女性層による商品の拡散を狙った。 <取り組みの効果> メディアの注目を浴び、テレビ局からの取材も受けた結果、受注の獲得に成功。 |
漁業 |
<取り組み内容> 夏場にイワガキの鮮度を保持するための冷却機を導入し、高品質なイワガキの周知のためにポスターを作成。 <取り組みの効果> 飲食店との新規取引獲得により売上増加。 |
建設業 |
<取り組み内容> 造り付け家具の製造効率改善のために精密昇降盤を購入し、オリジナル木製家具の一般販売も開始。 <取り組みの効果> 新事業の展開と新規客層やリピート層からの受注獲得に成功。 |
製造業 |
<取り組み内容> 海外富裕層客向けの清酒開発に向けて新たなステンレスタンクを購入し、ホームページやパンフレットに英文ページを掲載。 <取り組みの効果> 対前年比で年間輸出取引金額が15%増加し、外国人客への売上も50%増加を達成。 |
情報通信業 |
<取り組み内容> 留学の紹介斡旋事業を大学生に周知するため学内新聞に広告出稿。 <取り組みの効果> ホームページの刷新を専門業者に依頼し、閲覧者数や問い合わせ数の増加に成功。 |
運輸業、郵便業 |
<取り組み内容> 介護タクシーの利便性向上にむけて備品を整備し、医療機関や老人施設にチラシを配布。町広報やホームページを通して認知を広げた。 <取り組みの効果> 町内の福祉助成事業の継続契約が成立。町外からの転送依頼も増加。 |
卸売業、小売業 |
<取り組み内容>イートインスペース確保のための店舗改装を行い、タペストリーや看板の設置、ホームページの改修で周知。 <取り組みの効果> 併せて開発した新スイーツの販売数が増加し、総売上も前年比で10%増加。 |
不動産業、物品賃貸業 |
<取り組み内容> 在留外国人向けの家具リース事業のためにホームページを改修し、多言語対応を実施。 <取り組みの効果> 2〜3年の中期滞在者からのリース事業のニーズ増加により引き合いも増え、受注を新たに獲得。 |
学術研究、技術サービス業 |
<取り組み内容> 新たな写真撮影プランを開始し、チラシ作成や新聞折り込みに加え、店舗屋外にポスターパネルを設置。 <取り組みの効果> 新プランのPRにより問い合わせが増加し、客単価も20〜30%上昇。 |
宿泊、飲食サービス業 |
<取り組み内容> シニア向けすし宅配事業の立ち上げに向けてホームページ更新やカタログチラシを作成。安価で質のいいマグロ提供のための超低温ストッカーを導入。 <取り組みの効果> ハレの日以外の売上が5%増加し、新規でスタッフの採用を行い地域雇用も創出。 |
生活関連サービス業、 娯楽業 |
<取り組み内容> 納期短縮と値下げのために業務用ミシンを購入し、生産性の高いリペアサービスを実現。看板の設置とニューズレターの配布で新規顧客の獲得と既存顧客のリピート率上昇を図る。 <取り組みの効果> 今まで頼っていた外注費の軽減でリペア料金20%値下げ、納期の3~4日短縮が叶い、顧客の流出を防ぐことに成功 |
教育、学習支援業 |
<取り組み内容> 他の学習塾との差別化として固定式パーテーションを設置し、通年用のチラシ配布を実施。 <取り組みの効果> 学習環境が整い生徒の通塾継続率が上昇し、翌期の売上も増加。 |
医療福祉業 |
<取り組み内容> 新サービス強化のための器具を購入し、サービス周知を目的とした情報誌への広告掲載を実施。 <取り組みの効果> 新規顧客の増加や客層年齢低下による将来的な売上減少の回避に成功。 |
参考:「ミラサポplus」|中小企業庁
「販路開拓」で検索した事例では、新商品・新サービスを売り込むためのチラシやホームページの制作、商品開発や生産性向上のための機械導入などが目立ちました。また、取り組み後には、新規顧客の獲得や売上増加などの効果が見られました。
さまざまな事例を知ることで、自社の目指す販路開拓や補助事業計画のイメージがつきやすくなります。どのような販路開拓に取り組めば良いのか悩む場合は、実際に採択を受けた事業者が実施した補助事業の事例に目を通してみましょう。
なお、事例を探すもう1つの方法として、小規模事業者持続化補助金の公式サイトから「採択者一覧」のページを見る方法があります。採択者一覧では、採択者の「事業者名(屋号)」と「補助事業名」が記載されており、どのような事業計画が採択されているのかを参考にすることが可能です。
設備導入と新たな看板設置で集客増と業務効率化につなげた飲食店の事例
売上が右肩下がりで経営がマンネリ化していたという創業16年居酒屋が、小規模事業者持続化補助金を利用して販路開拓を行いました。補助事業の内容は主に「看板の作製・設置」と「やきとり焼き器の導入」です。
【実施した取り組みと事業の効果】
実施した取り組み |
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取り組んた事業の効果 |
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策定した経営計画で新規客を増やすことに成功した店主は、マンネリ化していた仕事に対して意欲を取り戻しました。また、来店した新聞記者が店の情報を記事にを取り上げてくれるという波及効果も得ることができました。
インバウンドや海外市場に着目した取り組みで販路開拓を行った酒造店の事例
創業1650年の酒造店が小規模事業者持続化補助金を利用してインバウンド旅行者への訴求力UPや海外市場進出に向けた販路開拓を行いました。補助事業の内容は主に英語版パンフレットの作成や海外展示会への出展です。
【実施した取り組みと事業の効果】
実施した取り組み |
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取り組んた事業の効果 |
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日本酒の国内消費は低迷しており、酒造業では海外への市場進出にも目を向けることが今後の課題となりつつあります。補助事業を実施した事業者は、今後も海外に向けた情報発信を積極的に行い、日本酒の文化を世界に広げるための前進を続けています。
小規模事業者持続化補助金を利用した販路開拓がもたらす効果
小規模事業者や個人事業主が事業を継続していくためには、持続的に売上を伸ばしていく必要があるため、販路開拓の取り組みが不可欠です。補助金を活用して行った販路開拓の取り組みは、波及効果をもたらし更なる売り上げの増加にもつながる可能性があります。
【補助金を活用した販路開拓がもたらす効果】
補助金を活用した販路開拓の取り組みが、宣伝や紹介によって広まることにより、新たな需要を生み出す波及効果をもたらす可能性があります。波及効果によって投資した金額以上の利益を得られれば、利益を元手にさらなる販路開拓に向けた計画を進めることも可能です。
たとえば、整骨院が産後や育児中の女性に向けた施術メニューの開始と小さな子供も同伴できるよう、キッズスペースを改装した事例があります。実施した計画により新規顧客を獲得したのちに、顧客からの紹介やSNSを通した宣伝などで更なる集客へとつながる波及効果も得られました。
販路開拓の取り組みを策定する際は、施した取り組みがさらにさまざまな人や媒体を通して「紹介されやすくなるための方法」を想定してみましょう。特にSNSやカタログなどを使ったコミュニケーションチャネルでのアピールは、補助事業の波及効果を生む傾向があります。
事業者が自社の強みや市場の傾向などを踏まえて計画した販路開拓の取り組みは、一度集客の増加を実現させた後にも、さらなる宣伝効果へと波及する傾向があります。小規模事業者持続化補助金を利用した販路開拓の効果が循環していくことを想定をしつつ、事業計画を立ててみましょう。
なお、小規模事業者持続化補助金は一度採択された事業者であっても、2度目以降の申請が可能です。補助金を受け取って販路開拓を成功させた後でも、また新たに次の販路開拓への挑戦ができるので、2回目、3回目の申請で採択を受けた事業者が活躍しています。
この記事のまとめ
小規模事業者持続化補助金の趣旨である「販路開拓の取り組み」とは、新たな顧客獲得に向けて事業の販売経路を広げていくための取り組みを示します。販路開拓の策定にあたり、まずは新商品や新サービスを売り込むための3つの販売経路を理解しておくとスムーズです。
販売経路は「コミュニケーションチャネル」「流通チャネル」「販売チャネル」の3つが考えられます。事業計画を立てる際は、販売方法や広告媒体など、どのチャネルにおける販路開拓が自社の事業を広げるために効果的であるかを検討する必要があります。
小規模事業者持続化補助金を利用する販路開拓には、10種類の経費項目が補助の対象となります。補助事業計画の実施に必要な経費を組み合わせて申請しましょう。なお、販路開拓の事例をいくつか確認しておくことで、自身の事業計画を立てる際の参考になります。