事業承継引継ぎ補助金の経営革新枠を解説

2024/07/09

2024/7/9

この記事の監修

株式会社SoLabo田原広一

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者田原 広一(たはら こういち)

融資支援実績6,000件超、補助金申請支援実績1,300件超、事業再構築補助金採択支援件数は第4回~第8回まで5回連続で日本一を獲得。 『小規模事業者持続化補助金』、『事業再構築補助金』、『IT導入補助金』は自社での申請・採択も経験。「補助金ガイド」LINE公式アカウントでは約4万人の登録者に情報発信を実施。

事業承継やM&Aを検討している人の中には、事業承継で使える補助金として事業承継・引継ぎ補助金が気になる人もいますよね。事業承継・引継ぎ補助金には補助金の用途に応じた3つの申請枠があり、そのうちのひとつに「経営革新枠」があります。

当記事では、事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠の概要を解説します。経営革新枠の対象者や申請要件も解説するので、経営革新枠に関心がある人は当記事を参考にしてみてください。

なお、当記事は事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトにある経営革新枠の公募要領(9次公募)をもとに作成しています。2024年7月に実施される10次公募においては「専門家活用枠」のみの募集となり、経営革新枠の募集はないため注意しましょう。

経営革新枠は事業承継により革新的かつ地域経済に貢献する事業者が対象

経営革新とは、事業承継・引継ぎ補助金の申請枠の名称です。経営革新枠は、事業承継をきっかけに革新的かつ地域経済に貢献する事業者を対象としており、具体的な対象事業には「デジタル化」や「地域の雇用維持」などがあげられます。

【経営革新的な事業承継の例】

経営革新的事業の例

〈デジタル化の場合〉
第三者から飲食業のテイクアウト事業の譲渡を受け、これまで電話注文で対応していた業務をデジタル化するため予約用のホームページを制作し、メールフォームで受け付ける

〈グリーン化の場合〉

学習塾の後継者となり、これまで紙で配布していたプリントの一部を生徒がいつでもスマホやパソコンで見られる管理画面へ配信する

〈事業再構築の場合〉

第三者からM&Aで事業承継を受け、これまで国内のみへ販売していた医療機器の一部を新分野展開として海外市場へも販売する

地域経済に貢献する事業の例

  • 地域の雇用を維持する
  • 地域にこれまでない新しい事業を創出する
  • 事業が所在する地域からの仕入れが多い
  • 事業が所在する近隣地域からの仕入れが多い
  • 技術、特産品、観光などの地域の強みを生かした事業である
  • 事業が所在する地域への売上や需要が見込める
  • 新事業に挑戦し、地域経済を活性化するプロジェクトの中心的な役割を担っている
  • 企業の成長が地域経済に波及効果をもたらし、地域経済の活性化につながる取組を行っている

参考:経営革新枠 公募要領(9次公募)|事業承継・引継ぎ補助金

たとえば、これまで電話応対で受注していた食品事業を事業承継する場合、新たにメールフォームの導入をすれば「デジタル化」につながり、地域の特産品の販売を加えれば「地域経済への貢献」につながる可能性があります。

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠は、事業承継で事業を引継ぎ、引き継いだ経営資源を活かして革新的で地域経済に貢献する事業者を対象としています。M&Aや親子承継などで事業を引き継ぎ、新たな事業に変えていきたい人は経営革新枠を検討してみてください。

なお、経営革新枠で定義する革新的事業は、不動産や物品のみを保有する不動産産業やフランチャイズ、物品賃貸業は補助の対象外です。デジタル化や地域経済に貢献する事業でも、資産の保有のみの事業は不採択となるので、申請時は事業内容を確認してみましょう。

補助金額は廃業・再チャレンジ枠との併用申請で最大950万円

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠の補助金額は最大で800万円です。廃業・再チャレンジ枠と併用することにより追加で廃業費を150万円まで上乗せできるため、最大950万円の補助額を受け取ることができます。

経営革新枠の補助金額と補助率は、事業者が賃上げや事業規模などの要件を満たすかどうかで異なります。

【経営革新枠の補助上限額と補助率の概要】

項目

要件に該当する(※1)

要件に該当しない

賃上げを実施する(※2)

【補助率】

2/3

【補助上限額】

800万円

(補助額600万円超~800万円の部分は補助率1/2を適用)

【補助率】

1/2

【補助上限額】

800万円

賃上げを実施しない

【補助率】

2/3

【補助上限額】

600万円

【補助率】

1/2

【補助上限額】

600万円

※1:補助率に関する補助対象者の要件のうちいずれかを満たす者

①中小企業基本法上の小規模企業者

②物価高の影響等により営業利益率が低下している者

③直近決算期の営業利益または経常利益が赤字の者

④再生事業者

※2:補助上限額の変更に関する賃上げ要件を満たす者

①補助事業期間終了時に、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+50円以上となる賃上げ

②補助事業期間終了時に、事業場内最低賃金+50円以上となる賃上げ(①を達成済みの事業者)

参考:経営革新枠 公募要領(9次公募)P.30|事業承継・引継ぎ補助金

たとえば、中小企業基本法上の小規模企業者が事業所内の賃金を地域別最低賃金から50円以上となる賃上げをおこなった場合、経営革新枠において最大となる「補助率2/3」と「補助上限額800万円」が適用されます。

また、経営革新枠で800万円の補助金額を申請し、廃業・再チャレンジ枠と併用申請する場合は、経営革新枠の800万円に廃業・再チャレンジ枠の廃業費を150万円を追加できるので、合計で950万円の申請が可能です。

経営革新枠でより高い補助率や補助金額を目指す人は、補助率や補助上限額に関する要件を満たすことや、廃業・再チャレンジ枠との併用申請を検討してみてください。廃業・再チャレンジ枠の概要については、「事業承継・引継ぎ補助金の廃業・再チャレンジとは?概要を解説」で詳しく説明しています。

なお、従業員がいない一人会社の場合は、賃上げ要件の対象外となります。要件を満たせば一人会社の人も事業承継・引継ぎ補助金に申請できますが、補助上限額は最大で600万円までとなることを留意しましょう。

対象となる経費は事業承継対象期間に引き継ぎされたものだけ

経営革新枠で補助される対象の経費は、事業承継をして引き継ぐ「店舗等借入費」や「設備費」などの事業費です。補助対象経費は、交付決定日から補助事業完了日までに契約と支払いが済んだ経費が対象となります。

【経営革新枠の補助対象経費(事業費)と追加できる補助対象経費(廃業費)】

事業費

廃業費

  • 店舗等借入費
  • 設備費
  • 原材料費
  • 産業財産権等関連経費
  • 謝金
  • 旅費
  • マーケティング調査費
  • 広報費
  • 会場借料費
  • 外注費
  • 委託費
  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費
  • 原状回復費
  • リースの解約費
  • 移転・移設費用(Ⅰ型・Ⅲ型のみ)

参考:経営革新枠 公募要領(9次公募)P.29|事業承継・引継ぎ補助金

たとえば、経営革新枠における9次公募の場合、事業承継対象期間は2019年11月23日から補助事業完了期限日である2024年11月22日までです。この期間に事業承継と支払いがされた事務所の貸借料敷金や事業に利用する設備費などの費用のみが補助対象になります。

また、設備の老朽化といった事情があり、対象事業を一度廃業する場合は「廃業・再チャレンジ枠」と併用申請し、事業承継対象期間中に廃業と新事業の両方で事業承継と支払いを済ませれば、廃業費と事業費の両方が補助の対象になります。

経営革新枠の補助対象経費は、事業承継で得た経営資源で革新的な事業をする事業費だけでなく、新たな革新的事業のために廃業する費用も対象です。また、事業承継・引継ぎ補助金の補助対象経費には、原則、2者以上の相見積が必要なので、相見積の取得も留意するようにしましょう。

なお、補助対象経費は、交付決定(採択)後に支払われた場合にのみ補助されます。これから経営革新枠に申請する人は、交付決定を受ける前に事業費の支払いをしないように注意しましょう。

スケジュールを申請から交付決定の後まで確認しておく

事業承継・引継ぎ補助金で補助対象経費の契約期間や支払い時期を確認する際は、交付決定の後のスケジュールも確認しましょう。経営革新枠の交付決定後のスケジュールを確認すると、実績報告をすべき時期や、補助金の振込時期の目安がわかります。

【9次公募のスケジュール】

申請受付期間

2024年4月1日(月)~2024年4月30日(火)17:00まで

交付決定日

2024年6月4日(火)

事業実施期間

2024年6月4日(火)~2024年11月22日(金)

実績報告期間

2024年8月29日(木)~2024年11月25日(月)

補助金交付手続き

2024年12月中旬以降(予定)

参考:経営革新 事業スケジュール|事業承継・引継ぎ補助金

経営支援枠の9次公募では、交付決定の発表は2024年6月4日(火)に行われました。交付決定日以降に事業を実施し、2024年11月25日(月)までに実績報告をする必要があります。

事業承継・引継ぎ補助金では、補助対象経費の対象期間や事業承継の対象期間など、複数の項目ごとで守るべきスケジュールがあります。事業承継・引継ぎ補助金に申請する人は、事前に事業承継・引継ぎ補助金の公式サイトで、各種対象期間を確認してみてください。

革新的事業は4つの要件を満たす必要がある

事業者が経営革新枠から補助事業計画を申請する際は、自社の事業計画が4つの革新的事業の要件を満たしているか確認しましょう。経営革新枠で求められる革新的事業は、デジタル化や地域経済への貢献を含め、4つの要件が設定されています。

【経営革新枠の補助対象事業の要件】

(1)中小企業者等が事業承継で引き継いだ経営資源をもとに、経営革新を行う取組であること

(2)補助対象期間を含む5年間において、付加価値額または1人当たりの付加価値額の伸び率が3%/年以上となる計画を事業者が立案し、達成が見込まれること

※付加価値額とは、営業利益、人件費、減価 償却費を足したもの

(3)「デジタル化に資する事業」「グリーン化に資する事業」「事業再構築に資する事業」のいずれかを伴う経営革新新的な事業を行い、認定支援機関が確認できる事業であること

(4)公序良俗に反する事業や同一の補助対象経費で国から他の補助金を受け取る事業でないこと

たとえば、M&Aで宿泊業を事業承継する人の場合、引き継いだ従業員やノウハウをもとに新たな予約システムを導入し、付加価値額を年3%以上伸ばす取組みを事業計画にすれば、4つの申請要件を満たす可能性があります。

経営革新枠の革新的事業では、付加価値額の伸び率3%/年を達成する事業計画が必要で、達成が見込めない事業計画では申請不可となります。経営革新枠に申請する人は、革新的かつ地域経済に貢献する事業にくわえ、付加価値額の伸び率にも留意しましょう。

9次公募の経営革新枠の採択率は60.0%

事業承継・引継ぎ補助金の9次公募における、経営革新枠の採択率は60.6%でした。事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠を検討している人は、経営革新枠の申請者数の動向を把握できるので、事業承継・引継ぎ補助金の公式ページで採択結果を調べてみてください。

【事業承継・引継ぎ補助金の9次公募の採択結果】

事業

申請者数(人)

採択者数(人)

採択率(%)

経営革新

388

233

60.6

専門家活用

440

275

62.5

廃業・再チャレンジ

25

14

56.0

参考:採択結果|事業承継・引継ぎ補助金

9次公募において、経営革新枠の採択率は60.6%で専門家活用枠の採択率は62.5%と大きく変わりませんでした。ただし、申請者数が異なることから枠ごとの難易度を一概に判断することはできないため、参考程度に留めておきましょう。

なお、事業承継・引継ぎ補助金の採択率は公募回と申請枠によって大幅に異なる場合があります。事業承継・引継ぎ補助金の採択率について、過去の公募回もあわせて詳しく知りたい人は、「事業承継・引継ぎ補助金の採択率は?不採択になる理由や採択事例も解説」の記事を参考にしてみてください。

経営革新枠では承継方法によって類型を選ぶ

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠は、承継方法により「創業支援類型(Ⅰ型)」「経営者交代類型(Ⅱ型)」「M&A類型(Ⅲ型)」の3つの類型に分かれます。類型により申請できる事業者は異なるので、経営革新枠に関心がある人は、各類型の特徴を確認しておきましょう。

【経営革新枠の各類型の概要】

類型

対象となる事業承継

創業支援類型(Ⅰ型)

事業承継で経営資産等を引継ぎ、事業承継対象期間中に法人を設立または個人開業する

経営者交代類型(Ⅱ型)

親族や従業員などのうち、一定の実績や知識をもつ者が事業承継をして事業を引き継ぐ

M&A類型(Ⅲ型)

M&AマッチングサイトやM&A仲介業者などを通じ、一定の実績や知識をもつ者が事業承継をして事業を引き継ぐ

たとえば、創業支援類型(Ⅰ型)の場合、事業を第三者から引き継ぎ、事業承継対象期間中に会社を設立し、革新的で地域経済に貢献する事業をする事業者は、補助の対象です。

また、経営者交代類型(Ⅱ型)の場合、一定の経験や知識のある従業員が、地域に需要のある事業を事業承継対象期間中に後継者として引き継ぐなら、補助の対象になります。

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠に申請する人は、「創業支援類型(Ⅰ型)」「経営者交代類型(Ⅱ型)」「M&A類型(Ⅲ型)」のいずれかを選び申請をします。各類型で定められた事業承継と合わない方法で事業承継をする場合は、補助の対象外となるので注意しましょう。

創業支援類型(Ⅰ型)では法人設立か個人開業する人が対象

創業支援類型(Ⅰ型)が対象となる事業者は、事業承継対象期間中に事業承継で得た資産で新たな事業を行い、法人設立または個人開業をする事業者です。事業承継の方法は複数あり、いずれの場合も、実質的な経営権を含む事業承継が補助の対象となります。

【創業支援型の事業承継の要件】

1.事業承継期間内に法人(中小企業者)の設立または個人事業主としての開業を行う

2.創業にあたり、廃業を予定している会社等から株式譲渡、事業譲渡等により登記変更、代表者変更、従業員や設備、株式の引継ぎを含め引き継ぐ

参考:経営革新枠 公募要領(9次公募)P.7|事業承継・引継ぎ補助金

たとえば、事業承継の要件1の場合、都内に複数の店舗をもつA社が、後継者不在で廃業するB社から事業譲渡され、B社の事業を行うための会社を新たに設立するといった事業計画ならば要件を満たします。

また、事業承継の要件2の場合、同じ条件のA社がB社から株式譲渡を受け、B社の株式と従業員などを取得しB社事業の登記をA社に移すならば要件を満たします。

経営革新枠の「創業支援類型」では、法人設立や個人開業をする要件と、被承継者から経営資源を全部引き継ぐ要件があり、申請者は両方を満たす必要があります。事業承継で新たな会社や事業を立ち上げる人は、自社の事業承継の内容が要件を満たすか注意しましょう。

なお、事業を個人事業主から譲り受ける法人の場合、対象事業を譲る個人事業主と対象事業を譲り受ける法人の代表者が同一であってはなりません。1社で複数の事業を持つ法人は、個人事業主名義の事業を自社法人へ引継ぎしないようにしてください。

事業承継の形態は吸収合併や株式交換がある

創業支援類型で補助される事業承継は、法人では「吸収合併」や「株式交換」などがあり、個人事業主では「事業譲渡」と「株式譲渡」のみとなります。法人設立または開業する予定があれば申請はできるため、申請時点で事業の代表権を持たなくても申請は可能です。

【創業支援類型(Ⅰ型)の事業承継の形態】

対象事業の種類

事業承継の内容

事業譲渡

第三者から事業譲渡を受け、引き継いだ設備や従業員を利用した事業を始めるため、開業する

株式譲渡

法人から株式譲渡を受け、会社の経営権をもち、新たな会社を設立し、引き継いだ設備や従業員を利用して事業を開始する

株式移転

A社とB社が50%ずつ保有する株式を、新たな会社Cにすべて移転し、会社Cが引き継いだ設備や従業員を利用し、新たな事業を始める

たとえば、個人事業主の場合、第三者の事業の設備や従業員を引き継ぎ、経営権を承継する場合は「事業譲渡」になります。申請時点では、対象事業での法人設立または開業は申請時点で実施していなくても申請は可能です。

また、法人の場合、第三者の事業の設備や従業員だけでなく、株式の過半数を取得する場合は「株式譲渡」となります。申請時点で、事業を譲り受ける人が事業承継が済んでいない場合、および対象事業での法人設立が済んでいない場合でも、申請はできます。

創業支援類型で対象の事業承継の形態は、事業譲渡や株式譲渡などで、個人事業主と法人で11の種類があります。自社の事業承継の形態が創業支援型に合致するか知りたい人は、経営支援型の公募要領の「事業承継形態に係る区分整理」の表を確認してみてください。

なお、法人が交付決定後に事業再編または事業統合を含む吸収合併や新設合併をする場合は、事業の承継者だけでなく、事業を譲り渡す法人(被承継者)と共に「共同申請」する必要があります。共同申請では被承継者の必要書類も提出する点に留意しましょう。

経営者交代類型(Ⅱ型)では親子や従業員間での承継が対象

経営者交代類型(Ⅱ型)は、親子で事業承継する「親族内承継」や、会社の上司から事業を引き継ぐ「従業員承継」を対象とする類型です。経営者交代類型(Ⅱ型)で事業を譲り受ける人は、経営に関して一定の実績や知識を有している者でなければなりません。

【経営者交代類型から申請する法人(後継者)に求められる要件の目安】

要件

概要

経済産業省の薦める制度を利用している者

  • 産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けた者
  • 地域創業促進支援事業(平成 29 年度以降は潜在的創業者掘り起こし事業)を受けた者
  • 中小企業大学校の実施する経営者・後継者向けの研修(具体的には経営後継者研修、経営管理者研修、経営管理者養成コースのいずれかの研修)を履修した者

経営等に関して一定の実績や知識等を有している例に該当する者(目安)

  • 他の会社または対象会社の役員として3年以上の経験をもつ
  • 個人事業主として3年以上の経験をもる
  • 対象会社と同じ業種で6年以上業務に従事した経験をもつ

たとえば、個人事業主A氏と個人事業主B氏が親族の場合、B氏がA氏と同じ業種で6年以上の経験をもち、経営者がA氏からB氏に交代されるなら、経営支援類型として申請できます。

また、業績が悪く事業再生中のA社の場合、別の事業を3年以上経営しているB社の代表者が事業を譲り受けるなら、B社代表は経営者交代型の法人後継者の要件を満たすため、A社は経営支援型として申請できます。

なお、経営者交代類型(Ⅱ型)に申請する承継者で既に承継している場合の経営経験の年数は定義されていません。「役員経験3年以上」や「同業経験6年以上」申請時点で承継者が代表権を持っていない場合の要件なので、既に承継している場合は目安として考えましょう。

事業承継の形態は事業譲渡や同一法人内の代表者交代となる

経営者交代類型で対象となる事業承継は、「個人事業主が法人から事業譲渡を受ける」「同一法人内で経営者交代をする」「事業譲渡を通じて法人成りする」の3つです。経営者交代類型の公募要領「事業承継形態に係る区分整理」で対象の事業承継を確認してみましょう。

【経営者交代類型(Ⅱ型)の対象事例の例】

対象事業の種類

親族内承継

親が高齢のため事業の経営者から退き、息子が経営権を譲り受けて事業承継する

従業員承継

現社長からの話を受け、現従業員が次期社長として経営社の地位と株式を譲り受け、事業を引き継ぐ

事業再生

業績が悪く、私的再生手続きをして事業再生を行うA社を、M&Aにより買収してB社が事業を引き継ぐ

たとえば、個人事業主A氏が法人B社から事業譲渡を受ける場合、経営者交代類型では個人事業主が法人から事業譲渡を受ける事業承継は対象となるので、個人事業主A氏は経営者交代類型の対象です。

一方、法人A社が法人B社から事業を引き継ぐ場合、法人A社が個人事業主から法人成りしない場合、同一法人内の代表者交代には該当しないので、経営者交代類型には該当しません。

経営者交代類型で対象の事業承継は、個人事業主は事業承継、法人は同一法人内の代表者交代か事業譲渡経由の法人成りのみです。前任より事業譲渡を受ける人は、事業承継が経営者交代型の事業承継に該当するかを確認してみてください。

なお、実際に経営者交代をしたかの判断は、交付決定後に提出する必要書類のひとつである「登記事項全部証明書」で判断されます。登記事項全部証明書で経営者交代が確認できない場合は、経営者交代型に申請しても不採択となるので、忘れずに登記事項の変更をしましょう。

経営者交代類型のみ一部未来の承継も対象となる

他の類型では事業承継対象期間に事業承継を済ませる必要がありますが、経営者交代類型では、同一内法人の経営者抗体の場合のみ、事業承継対象期間以降の「未来の承継」も補助の対象です。経営者交代型で申請する人は、「未来の承継」の仕組みを理解しましょう。

【経営者交代類型(Ⅱ型)の事業承継による事業承継対象期間の違い】

項目

親族内承継/従業員承継/事業再生の場合

同一法人内の代表者交代の場合

補助対象経費の契約と支払い

事業承継対象期間内

事業承継対象期間内

事業承継に関わる引継ぎ(手続き)

事業承継対象期間内

事業承継対象期間が終わる事業年度から5年後の年度末

たとえば、9次公募の経営者交代型で個人事業主が事業承継をする場合、補助対象経費の契約、支払いと事業承継はすべて「交付決定日〜2024年11月22日」までに済ませる必要があります。

しかし、9次公募の経営者交代型で同一法人内の経営者交代をする場合、補助対象経費の契約、支払いは「交付決定日から2024年1月22日」までとなりますが、事業承継の登記や引継ぎは、5年後の2029年12月31日までとなります。

経営者交代型で同一法人内の代表者交代の場合は、引継ぎや登記に限り、未来の承継も補助されます。未来の承継をする際は認定経営革新等支援機関から事業承継の蓋然性につき確認を受け、事業計画書計画書にその旨記載する必要があるので、覚えておきましょう。

なお、経営者交代型の申請時に同一法人内経営者交代で未来の承継で交付決定を受け、実際に事業承継をしない場合は「再度承継計画を提出させられる」といった措置があります。未来の承継の場合も、忘れずに事業承継を実施するようにしましょう。

M&A類型(Ⅲ型)は事業譲渡や吸収合併での承継が対象

M&A類型は、「事業譲渡」「吸収合併」「吸収分割」などのM&Aで事業を譲り受ける事業者が対象です。具体的には、M&Aマッチングサイトを通じて、対象事業の経験や知識がある事業者が事業承継をする場合、新たに承継する事業の店舗借入費や設備が補助されます。

【M&A類型で注意すべき補助対象経費】

補助される対象の経費

補助されない対象外の経費

〈事業費〉

  • 店舗等借入費
  • 設備費
  • 原材料費
  • 産業財産権等関連経費
  • 謝金
  • 旅費
  • マーケティング調査費
  • 広報費
  • 会場借料費
  • 外注費
  • 委託費

〈廃業費〉※「廃業・再チャレンジ」枠と併用申請する場合のみ

  • 廃業支援費
  • 在庫廃棄費
  • 解体費
  • 原状回復費
  • リースの解約費
  • 移転・移設費用(Ⅰ型・Ⅲ型のみ)
  • M&A(事業再編・事業統合)費用
  • M&A(事業再編・事業統合)仲介手数料
  • デューデリジェンス費用
  • コンサルティング費用等

たとえば、M&Aアドバイザリーから事業を譲り受ける人を紹介してもらう場合、事業者が事業を引き継いだあとに新たに事業を始めるための設備費やコンサルティング費としての謝金などが補助されます。

なお、M&A類型で補助される経費は他の類型と同様に事業費であり、M&A費用やデューデリジェンス費用を申請しても不採択となります。M&Aに係る事業再編費用や仲介手数料の補助をして欲しい場合は、専門家活用枠からの申請を検討しましょう。

事業承継の形態は事業譲渡や株式譲渡がある

M&A類型は創業支援類型と同じで、個人事業主と法人による事業譲渡や吸収合併、株式譲渡などが対象ですが、引き継いだ事業をそのまま実施します。また、M&Aを受ける事業者が事業を譲る事業者の家族や従業員の場合は、申請が不採択となるので注意しましょう。

【M&A類型(Ⅲ型)の対象事例の例】

対象事業の種類

事業譲渡

個人事業主が事業を廃業しようとしているため、事業譲渡をもちかけ、法人が個人事業主から事業を購入する

吸収合併

A社とB社は取引先同士であったが、合併した方が共通の事業のコストを抑えられるため、A社はB社と合併し、共通の会社で事業を行うことにする

吸収分割

A社はB社の行う2つの事業のうち1つを譲り受けることになった

たとえば、M&Aアドバイザリーから紹介を受けて第三者が経営する事業を譲渡される場合、原材料費や広報費などを補助対象経費としてM&A類型から申請することが可能です。

一方、家族が経営者の事業の一部を事業譲渡される場合、分割された事業を仲介してもらう仲介手数料を補助対象経費とするなら、事業承継の形態の点でも補助対象経費の点でも補助の対象外です。

経営革新枠のM&A類型は、親族と従業員以外から事業承継を受け、引き継いだ事業を継続する事業承継が対象です。M&A類型として事業を承継者に譲り渡す者は、株式をもつ株主であっても対象法人の経営をしていない場合は被承継者とはならないので注意しましょう。

経営革新枠での申請は認定支援機関への相談が必要となる

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠に申請するには、認定支援機関への相談が必須です。経営革新枠の申請書類のひとつには、認定支援機関の発行する「確認書」が含まれるためです。

【認定支援機関の概要】

  • 正式名称は「認定経営革新等支援機関」である
  • 中小企業支援に関する専門的知識や実務経験が一定レベル以上にある者として経済産業省に認可された団体
  • 金融機関や弁護士、民間のコンサルタントなどさまざまであり、専門分野が異なる
  • 料金体系は認定支援機関ごとに異なる
  • 「認定支援機関検索システム」から都道府県別で検索できる

認定支援機関に相談すると、認定支援機関は法人が事業承継・引継ぎ補助金の申請要件や補助事業計画など計4点を確認し、問題なければ「確認書」を発行してくれます。

また、無事に事業承継・引継ぎ補助金で交付決定を受けた場合は、申請した事業者は担当の認定支援機関へアフターフォローとしてサポートを受けられます。

認定支援機関のサポートを受けることにより、事業承継の形態や補助対象経費など、申請に必要な要件を満たせるかどうかを事前に確認できます。経営革新枠に申請する際、認定支援機関の発行する確認書がないと申請しても書類不備で不採択となるので注意しましょう。

まとめ

経営革新枠は、事業承継をするだけでなく、事業承継をきっかけに革新的かつ地域経済に貢献する事業者を対象とします。具体的には、具体的には「デジタル化」や「地域の雇用維持」などに該当する事業です。

事業承継・引継ぎ補助金の経営革新枠補助金額は最大で800万円ですが、廃業・再チャレンジ枠と併用した申請した場合は、廃業費を追加で150万円まで申請できます。営革新枠の補助金額と補助率は、事業者が賃上げや事業規模等の要件を満たすかどうかで異なります。

経営革新枠の申請書類のひとつには認定支援機関の発行する「確認書」が含まれるため、経営革新枠に申請するには認定支援機関への相談が必須です。経営革新枠へ申請する人は、申請の準備の前に認定支援機関に相談しましょう。

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