ものづくり補助金で個人事業主が満たすべき要件を具体例と共に解説
2023/12/11
2022/5/19
個人事業主はものづくり補助金の対象なのか気になる人もいますよね。また、対象になるためにはどのような要件を満たせばいいのか具体的に知りたい人もいるでしょう。
当記事では、ものづくり補助金で個人事業主が満たすべき要件を解説します。具体例も紹介するので、ものづくり補助金に関心のある個人事業主の人は参考にしてみてください。
Contents
ものづくり補助金は個人事業主でも応募できる
ものづくり補助金は、株式会社などの法人を設立していない個人事業主でも応募できます。ものづくり補助金の公募要領には、補助対象者の項目に会社又は個人と記載があるためです。
しかし、ものづくり補助金に応募申請する場合、3つの「基本要件」を満たす必要があります。ものづくり補助金の基本要件は、3つとも賃上げに関係するものです。
①事業計画期間において、給与支給総額が年率平均1.5%以上増加。 事業場内で最も低い賃金)を、 毎年、地域別最低賃金+30円以上の 水準とする。 以上増加。 |
ものづくり補助金は製造業以外の事業者でも対象となりますが、応募申請する場合は、基本要件を満たさなければなりません。ものづくり補助金に関心のある個人事業主は、賃上げに関わる基本要件を満たせるか検討してみましょう。
なお、ものづくり補助金で支援される主な経費は、機械設備やシステムです。個人事業主の場合、補助金額は「事業者が支払う補助対象経費×補助率2/3」となります。ものづくり補助金で全額が補助されるわけではないので、留意しておきましょう。
採択結果では半数以上が従業員数20人以下
ものづくり補助金の公式サイトにある採択結果では、採択された事業者の半数以上が「従業員数20人以下」でした。従業員は常時雇用する者であればパートやアルバイトも含むため、従業員数の少ない個人事業主も、ものづくり補助金で採択される可能性があります。
ものづくり補助金の公式サイト「データポータル」では、過去の応募申請者や採択者に関わるデータを公開しています。
0-5人 | 6-20人 | 21-50人 | 51-100人 | 101人以上 | |
従業員数 | 42.4% | 32.5% | 15.3% | 6.1% | 3.7% |
採択率 | 40.8% | 54.3% | 58.3% | 62.0% | 57.4% |
※ものづくり補助金の公式サイト「データポータル」をもとに、株式会社ソラボが作成
12次公募から15次公募までの申請者の従業員数のグラフを表にしました。この表の数値をみると、従業員数が0人~5人の申請者が最も多く、従業員数が6人~20人までが2番目に多い結果でした。
一方、採択率をみると、従業員数51人~100人の申請者が最も採択率が高く、従業員数21人~50人の申請者が2番目に採択率が高い結果でした。
一人社長や従業員なしの場合は役員報酬を上げる
一人社長や従業員なしの場合は、従業員の給料や手当の代わりに役員報酬を上げれば、ものづくり補助金の基本要件を満たせます。なぜなら、ものづくり補助金の公式サイトにある「よくあるご質問」をみると、給与支給総額に役員報酬が含まれると書かれているからです。
ものづくり補助金の基本要件は、主に従業員の給与支給総額と事業場内最低賃金を増加させることです。従業員がいない場合は、役員報酬を給与支給額と事業場内最低賃金に置き換えることで、応募申請ができます。
基本要件の種類 | 例 |
①給与支給総額を年率平均1.5%以上増加 | 役員報酬を年率平均1.5%以上増加 |
②毎年、事業場内最低賃金を地域別最低賃金 +30円以上の水準とする |
毎年、役員報酬を時給換算した賃金を 地域別最低賃金+30円の水準とする |
③事業者全体の付加価値額を年率平均 3%以上増加 |
事業での営業利益+役員報酬+減価償却額 の額を年率平均3%以上とする |
※基本要件は事業計画期間中に実施される必要がある
※ものづくり補助金公式サイト「公募要領16次締め切り分2.0版」をもとに、株式会社ソラボが作成
たとえば、基本要件①の給与支給額の場合、従業員のいない事業者は賃金や給与を支払っていないため、代わりに役員報酬を1.5%以上増加させます。仮に役員報酬が700万円なら、年間で10万5千円を増加させると、基本要件①の給与支給総額を満たすことになります。
また、基本要件②の事業場内最低賃金の場合は、まず役員報酬を労働時間で割り、時間給に換算します。仮に役員報酬が年収700万円で月に200時間働いているなら、700万円を12か月で割り、さらに200時間で割ると時給換算された役員報酬が算出されます。
現在、従業員がいない事業者でも、ものづくり補助金への応募申請が可能です。ただし、ものづくり補助金の審査項目には地域の雇用も含まれます。3~5年の事業計画で引き続き雇用がない事業計画の場合は、審査上、不利になる可能性もあるので、留意しておきましょう。
ものづくり補助金で個人事業主が基本要件を満たす具体例
ものづくり補助金で個人事業主が基本要件を満たす例としては、設備投資で営業利益が上がる例が挙げられます。事業に必要な機械設備やシステムを導入すると営業利益の増加が期待できるので、その結果、基本要件である賃上げも可能となるためです。
たとえば、エステサロンを経営している事業者が、ものづくり補助金で痩身用キャビテーションという機器を200万円で導入して、年間100万円の利益がでたと仮定します。
この場合、年収400万円の正社員を5名雇っているなら、1年間で30万円、3年間で計90万円の賃上げをすれば給与支給総額の要件は満たせる計算になります。また、基本要件の「事業場内最低賃金」は、応募申請時点で地域別最低賃金を満たしていればよいので、申請時点で要件を満たしている場合もあります。
例 | 個人事業主の負担額 |
年収400万円の従業員が5人いる場合の 給与支給総額1.5%/年増加 |
3年で90万円の給与支給総額の増加 (1年間で30万円) |
月間100時間勤務で月給13万円のパートが 5人いる場合の、 東京の事業場内最低賃金の+30円増加 |
現在の時給のままで事業場内最低賃金の 要件は満たす |
現在の付加価値額が900万円で200万円の 設備投資をする場合の、 付加価値額の年率平均1.5%以上増加 |
200万円の設備投資を減価償却期間10年で 割って付加価値額に追加すると、要件は満たす |
事業者が設備投資をするということは、設備投資が適切でない場合を除き、営業利益や減価償却費は多かれ少なかれ増加されます。ものづくり補助金の基本要件は難しいと感じる場合は、どのぐらいの営業利益をだせば賃上げできるのか具体的な数字を出してみましょう。
申請前に個人事業主が確認すべき注意点
ものづくり補助金に応募申請する場合は、申請前に注意点を確認しましょう。公募要領を読む、書類のミスをなくす等の注意点もありますが、最も大きな注意点は、「基本要件が未達の場合、補助金の返還がある」「補助される経費には見積もりが必要」という2点です。
注意点 | 注意すべき理由 |
基本要件が未達だと受け取った補助金を 返還する可能性がある |
一度受け取った補助金を返還しなくては ならない場合、資本金のない個人事業主は 影響力が大きい |
申請する経費には見積もりが必要 |
公募要領に記載の補助対象経費を購入する 事業者でも、採択後に見積を提出できない場合は、 当該経費の補助は受けられない |
ものづくり補助金の基本要件を満たすような事業計画を立て、無事に採択されたとしても、実際に賃上げをしない場合は、補助金を返還しなくてはなりません。ものづくり補助金に応募申請して補助金を受け取るまでには1年近くかかるため、補助金の返還は大きな負担です。
また、ものづくり補助金に申請する場合は、応募申請時または交付申請時に経費の見積を添付する必要があります。見積を事務局に送付できない時は、交付決定額という補助金の予定額を減額されるため、事業者が補助金を受け取れなくなる可能性もあります。
ものづくり補助金に採択された場合、賃上げは必ず行う必要があるので、実現できる範囲で賃上げを計画することが大切です。また、ものづくり補助金を利用して機械設備を購入する場合は、購入前に見積を取得する必要があるので、応募申請する際は忘れずに取得するようにしましょう。
個人事業主が採択されるためのポイント
ものづくり補助金に個人事業主が採択されるためのポイントは、「審査項目に沿って事業計画を書く」「加点を積極的に取る」の2つです。公募要領には「審査項目を基準に審査する」旨が記載されており、公式サイトをみると、加点を多く取得している人はそうでない人に比べ、採択率が高いためです。
ものづくり補助金公式サイトの「データポータル」によると、採択された事業者のうち最も採択率が高かったのは、事業計画作成に90時間以内の時間をかけた人たちでした。ものづくり補助金での採択を目指すなら、基本要件を満たすと同時に、審査項目に沿った事業計画書も意識しましょう。
審査項目に沿って事業計画書を書く
ものづくり補助金の公募要領には、4つの審査項目が記載されているので、審査項目に沿った事業計画書を書くことは大切です。
【補助事業としての適格性】補助対象事業としての適格性があるか 課題の解決方法が明確かつ妥当であるか、など 十分に事業を遂行できるか、事業化に向けて社外の市場ニーズや競合の 把握ができているか、など |
※グリーン枠には別途、審査項目の追加があります
たとえば、補助事業としての適格性の場合、これは基本要件3点を指しているため、賃上げに取り組む事業計画であれば、1つ目の審査項目は満たせます。
また、技術面の場合は、技術的に革新的な取り組みである必要があります。これまで学習塾を行っていた個人事業主なら、学習塾で培った教室運営の技術を新たにプログラミング教室の運営に生かす、といった取り組みが考えられます。
ものづくり補助金の審査項目をより理解するには、過去の採択事例を参考にすることも有効です。ものづくり補助金でどんな事業計画が審査項目を満たすのか知りたい場合は、公式サイトにある「もの補助成果事例検索」を使って、過去の事例を確認してみましょう。
加点を取る
ものづくり補助金では加点は取る方が、採択への可能性が高まります。加点とは、審査項目とは別に設定された、取得することで審査が有利になる基準です。個人事業主も取得が狙える加点はあるので、ものづくり補助金に申請する際は、加点を検討してみましょう。
加点 | 書類 |
成長性加点 | 経営革新計画承認書 |
政策加点 |
*所轄税務署の収受印若しくは電子申請の受付刻印のある 「個人事業の開業・廃業等届出書」を指します。
写し等の写し(デジタル枠のみ) |
災害等加点 | (連携)事業継続力強化計画認定書 |
賃上げ加点 | 特定適用事業所該当通知書 |
たとえば、成長性加点の場合、個人事業主も経営革新計画の対象なので、加点を取得できます。経営革新計画は、「中小企業等経営強化法」に基づいた新商品の開発や生産などの計画です。事業者が数値目標を立てた計画を申請する、都道府県または国が承認します。
また、政策加点の場合は、ものづくり補助金の申請時に創業から5年以内の事業者は取得できます。そのため、開業から5年以内の個人事業主が設備投資でものづくり補助金に応募申請したいなら、開業時に取得した開業届を提出すると加点になります。
ものづくり補助金の加点が多い人は採択率も高いという、公式のデータがあります。ものづくり補助金に応募申請する人は、審査項目はもちろんのこと、1つでも多くの加点を意識して書類作成をしてみてください。
この記事のまとめ
ものづくり補助金は、株式会社などの法人を設立していない個人事業主でも応募できます。ただし、応募申請する場合は、基本要件を満たさなければなりません。ものづくり補助金に関心のある個人事業主は、賃上げに関わる基本要件を満たせるか検討してみましょう。
ものづくり補助金の基本要件は、主に従業員の給与支給総額と事業場内最低賃金を増加させることです。ただし、従業員がいない場合は、役員報酬を給与支給額と事業場内最低賃金に置き換え、応募申請することは可能です。
ものづくり補助金に個人事業主が採択されるためのポイントは、「審査項目に沿って事業計画を書く」「加点を積極的に取る」の2つです。ものづくり補助金で採択されたい場合は、基本要件を満たし、審査項目に沿った事業計画書を立てるように意識しましょう。