補助金ガイド

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントを解説

2024/05/27

2022/5/19

この記事の監修

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者田原広一(たはら こういち)

融資支援実績6,000件超、補助金申請支援実績1,300件超、事業再構築補助金採択支援件数は第4回~第8回まで5回連続で日本一を獲得。 『小規模事業者持続化補助金』、『事業再構築補助金』、『IT導入補助金』は自社での申請・採択も経験。「補助金ガイド」LINE公式アカウントでは約4万人の登録者に情報発信を実施。

ものづくり補助金は個人事業主が申請できる補助金です。公募要領には「個人事業主を含む小規模事業者は補助対象」と明記されている点に加え、過去には個人事業主の採択事例もあるため、ものづくり補助金は個人事業主も申請する検討の余地があります。

当記事では、ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントを解説しています。「法人が申請するときとの相違点」「個人事業主が申請するときの注意点」が明確になるため、ものづくり補助金を検討している個人事業主の人は参考にしてみてください。

ポイントは従業員数を確認すること

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「従業員数を確認する」ことです。ものづくり補助金は「個人事業主を含む小規模事業者は補助対象」と明記されていますが、従業員数によって小規模事業者の定義や補助上限額が異なるため、まずはそれぞれの項目を確認してみましょう。

【ものづくり補助金における小規模事業者の概要】

項目

概要

小規模事業者の定義

【製造業その他】20人以下

【商業・サービス業】5人以下

(宿泊業・娯楽業は20人以下)

小規模事業者の補助上限額

【常勤従業員数5人以下の場合】

750万円~最大4,000万円

【常勤従業員数20人以下の場合】

1,000万円~最大4,000万円

※申請枠や類型により補助上限額は異なる

小規模事業者の補助率

小規模事業者は2/3

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金

公募要領によると、小規模事業者の定義は常勤従業員数によって判断されています。業種ごとに小規模事業者と判断される常勤従業員数が定められているため、個人事業主がものづくり補助金を申請するときは従業員数が小規模事業者の範囲内に収まっているかどうかを確認します。

また、小規模事業者の補助上限額も常勤従業員数によって定められています。申請枠や類型に加え、常勤従業員数によって補助上限額が設定されているため、個人事業主がものづくり補助金を申請するときは従業員数に応じた補助額を申請しているかどうかを確認します。

なお、常勤従業員とは「中小企業法上の常時使用する従業員を指します。「アルバイト」「パート」「専従者」も常勤従業員にあたる可能性が高いため、個人事業主がものづくり補助金を申請するときは常勤従業員数を確認することを念頭に置いておきましょう。

申請事業者の約10%が従業員数5人以下

ものづくり補助金の申請事業者は、約10%が従業員数5人以下であるデータが公開されています。ものづくり補助金の公式サイトでは、13次から16次までのものづくり補助金の申請事業者のデータが公開されているため、参考にしてみてください。

13次から16次までの申請事業者に関するデータ】

項目

申請事業者の割合

従業員数が5人以下の申請者数の割合

13次】7.8%

14次】10.4%

15次】11.6%

16次】11.6%

従業員数ごとの採択率

05人】40.3%

620人】54.2%

2150人】54.8%

51100人】56.6%

100人以上】54.8%

参考:ものづくり補助金公式サイト「データポータル」|ものづくり補助金

従業員数が5人以下の申請者数の割合は、増加傾向にあります。「13次公募は7.8%」「14次公募は10.4%」「15次公募は11.6%」など、個人事業主または小規模事業者がものづくり補助金に申請する割合は、公募回を重ねるごとに増加しています。

従業員が5人以下の申請者数の採択率は、従業員数が6人以上の申請者と比較すると低い傾向にあります。13次から16次までの公募データによると、従業員数が6人以上の事業者の採択率は約55%ですが、従業員数が5人以下の採択率は約40%です。

なお、16次の採択結果より、個人事業主の採択数を株式会社SoLaboが算出したところ、採択事業者のうち個人事業主の割合は約9%でした。ものづくり補助金を検討している個人事業主の人は、申請事業者全体における個人事業主の割合も参考にしてみてください。

ポイントは基本要件を確認すること

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「基本要件を確認する」ことです。基本要件を満たす事業計画書を策定することはものづくり補助金を申請するときのポイントのひとつとなるため、まずは基本要件の内容を確認してみましょう。

【ものづくり補助金の基本要件】

以下の条件をすべて満たす3年から5年の事業計画書を策定し、実行すること。

  • 付加価値額の年平均成長率+3%以上増加
  • 給与支給総額の年平均成長率+1.5%以上増加
  • 事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金

ものづくり補助金の基本要件は「付加価値額」「給与支給総額」「事業場内最低賃金」をそれぞれ定められた水準に引き上げることです。ものづくり補助金を検討している個人事業主の人は、それぞれの項目内容や計算方法を確認してみましょう。

付加価値額の年平均成長率+3%以上増加

ものづくり補助金の基本要件のひとつは「付加価値額の年平均成長率を3%以上増加させること」です。付加価値額の算出方法は法人と個人事業主とでは異なるため、個人事業主が付加価値額を算出する方法を確認しておきましょう。

【個人事業主が付加価値額を算出する場合の計算式】

個人事業主の付加価値額=営業利益(㉝+㉒)+減価償却費⑱ +福利厚生費+給料賃金

※数字は青色申告決算書「損益計算書」に記載されている勘定科目番号

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版 |ものづくり補助金

個人事業主が付加価値額を算出する場合は、青色申告決算書の損益計算書にある該当の費用項目を足すことにより算出できます。「減価償却費」「福利厚生費」など、青色申告決算書上の該当費目の合計が個人事業主の付加価値額となります。

価値付加額の年平均成長率は、基準年度と計画最終年度の価値付加額から算出できます。電子申請システム上では自動計算されるため、自動計算された値が3%以上増加しているかどうかを確認することになります。

なお、個人事業主の付加価値額を算出する場合は、人件費の構成要素である専従者給与㊳と青色申告特別控除前の所得金額㊸は含めません。給与支給総額ではこれらの費用を含めますが、付加価値額を算出するときは含めない点を留意しておきましょう。

給与支給総額の年平均成長率+1.5%以上増加

ものづくり補助金の基本要件のひとつは「給与支給総額の年平均成長率を1.5%以上増加させること」です。給与支給総額の算出方法は法人と個人事業主とでは異なるため、個人事業主が給与支給総額を算出する方法を確認してみましょう。

【個人事業主が給与支給総額を算出する場合の計算式】

給与支給総額=給料賃金+専従者給与+青色申告特別控除前の所得金額(⑳+㊳+㊸)

※数字は青色申告決算書「損益計算書」に記載されている勘定科目番号

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金

個人事業主が給与支給総額を算出する場合は、青色申告決算書の損益計算書にある該当費目を足すことにより算出できます。「給料賃金」「専従者給与」など、青色申告決算書上の該当費目の合計が個人事業主の給与支給総額となります。

給与支給総額の年平均成長率は、基準年度と計画最終年度の給与支給総額から算出できます。電子申請システム上では自動計算されるため、自動計算された値が1.5%以上増加しているかどうかを確認することになります。

なお、青色申告特別控除前の所得金額は事業主本人の所得金額を指します。従業員を雇用していない場合は、事業主本人の所得金額を増加させる計画を策定することにより、給与支給総額の基本要件を満たすことができる点を留意しておきましょう。

事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上

ものづくり補助金の基本要件のひとつは「事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高い水準を維持すること」です。事業場内最低賃金は、補助事業を実施する事業所の従業員のうち、時給換算した給与が最も低い従業員の賃金を指します。

【事業場内最低賃金が1,000円の場合】

地域別最低賃金

申請事業者の対応

神奈川県の最低賃金が1,112

事業場内最低賃金を1,142円以上に引き上げる

大阪府の最低賃金が1,064

事業場内最低賃金を1,094円以上に引き上げる

北海道の最低賃金が960

事業場内最低賃金の引き上げなし

たとえば、補助事業を行う地域が神奈川県の場合、事業場内最低賃金の引き上げが必要です。神奈川県の最低賃金が1,112円のため、事業場内最低賃金は30円上乗せした1,142円以上に引き上げることになります。

また、事業場内最低賃金は毎年見直す必要があります。地域別最低賃金は毎年見直しが行われるため、事業計画の実施期間中は毎年3月時点において、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準に保つよう定められています。

なお、従業員を雇用していない場合は対応する必要がありません。ただし、今後従業員を雇用する場合は事業場内最低賃金の要件を満たさなければならないため、従業員を雇用する予定がある人は留意しておきましょう。

ポイントは審査項目を確認すること

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「審査項目を確認する」ことです。公募要領に記載された審査項目を押さえておくことにより、個人事業主がものづくり補助金の採択を受ける事業計画書を作成できる可能性があります。

【ものづくり補助金の審査項目】

審査項目

具体例

補助対象事業としての適格性

「対象事業」「対象者」「申請要件」「申請枠」「補助率」など、ものづくり補助金の公募基準を満たしているかどうか

技術面

「製品やサービスの革新性」「課題解決方法の具体性」など、事業内容がものづくり補助金の目的と合致しているかどうか

事業化面

「補助事業の実現可能性」「補助事業の費用対効果」など、市場に影響を与える事業が計画的に実行されるかどうか

政策面

「地域経済への貢献性」「国の経済発展への貢献性」など、政策意義のある事業かどうか

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版 |ものづくり補助金

ものづくり補助金の審査項目のひとつは「補助対象事業としての適格性」です。「従業員数に応じた申請内容」「青色申告決算書に基づいた申請内容」など、公募要領に記載されている公募基準を満たした申請内容になっているかどうかを審査されます。

ものづくり補助金の審査項目のひとつは「事業化面」です。ものづくり補助金は入金までの期間が長期化する傾向にある関係上、「財務状況」「事務処理能力」など、個人事業主が事業計画を遂行できる状況であるかどうかを審査される可能性があります。

なお、ものづくり補助金の事業内容は「技術面」「政策面」の観点からも審査されます。「製品やサービスの革新性」「地域経済への貢献性」など、それぞれの審査項目を押さえた事業計画書を作成することにより、採択を受ける可能性が高まるため、個人事業主がものづくり補助金を申請するときは審査項目を踏まえた事業計画書を作成するようにしましょう。

加点項目も確認すること

ものづくり補助金の書面審査は審査項目に加え、5つの観点からなる計19項目の加点項目があります。最大6項目まで加点の申請ができるため、個人事業主がものづくり補助金を申請するときは加点項目も確認しておきましょう。

【個人事業主が申請できる可能性がある加点項目の例】
  • 経営革新計画の承認を受けた事業者
  • 創業後5年以内の事業者
  • パートナーシップ構築宣言を公表している事業者
  • 再生事業者
  • DX認定事業者
  • サイバーセキュリティお助け隊サービスを利用している事業者
  • 技術情報管理認証制度の認証を取得している事業者
  • 取引先がグリーン化の取組記載のあるパートナーシップ構築宣言を公表している事業者
  • 新規輸出1万者支援プログラムに登録している事業者・J-クレジット制度を活用している事業者
  • 事業継続力強化計画の認定を取得した事業者
  • ものづくり補助金の基本要件のうち、賃上げ要件をさらに高い水準で計画する事業者
  • 被用者保険の任意適応に取り組む事業者
  • えるぼし認定を受けている事業者
  • くるみん認定を受けている事業者

参考:「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業」 公募要領(18次締切分)1.1版 |ものづくり補助金

個人事業主が申請できる可能性のある加点項目のひとつは「事業継続力強化計画の認定を取得する」ことです。自然災害や感染症拡大などへの事前対策として、事業継続力強化計画を策定し、承認を得ることにより、ものづくり補助金の審査時に加点されます。

個人事業主が申請できる可能性のある加点項目のひとつは「パートナーシップ構築宣言を公表する」ことです。事業者が取引先事業者への取引方針を宣言するパートナーシップ構築宣言し、公表されることにより、ものづくり補助金の審査時に加点されます。

なお、加点項目の中には個人事業主が申請できない項目もあります。法人のみ取得できる認証やプログラムなど、個人事業主が取得できない加点項目もあるため、気になる加点項目がある人はそれぞれの項目内容を取り扱っている窓口に問い合わせることも検討してみましょう。

この記事のまとめ

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「従業員数を確認する」ことです。ものづくり補助金は従業員数によって小規模事業者の定義や補助上限額が異なるため、個人事業主が申請するときは従業員数を確認しておくことがポイントのひとつになります。

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「基本要件を確認する」ことです。基本要件の算出方法は法人と個人事業主とでは異なるため、個人事業主が申請するときは基本要件を確認することがポイントのひとつになります。

ものづくり補助金を個人事業主が申請するときのポイントは「審査項目を確認する」ことです。公募要領に記載された審査項目を押さえておくことにより、個人事業主がものづくり補助金の採択を受ける事業計画書を作成できる可能性があります。

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