事業再構築補助金の小売業・卸売業の採択事例と補助対象経費
2024/05/08
2022/3/25
小売業や卸売業を営む事業者の中には、事業再構築補助金の申請を検討している人もいるでしょう。小売業や卸売業における事業計画で、補助対象となる経費について知りたい人もいますよね。
当記事では、一般消費者向けの小売業や小売店に商品を卸す卸売業を営む事業者が採択された事業計画の傾向とともに、小売業・卸売業が事業再構築補助金を申請した場合にどのような経費を補助対象とできるのかについてご紹介します。
なお、当記事は事業再構築補助金の公式サイトにある採択事例紹介および第12回公募要領をもとに作成しています。
事業再構築補助金の小売業の採択事例
メーカーが生産した製品を直接消費者に届ける事業を行っているのが、小売業です。小売業が扱う商品は商品の種類は多岐にわたり、日用品・食品・アパレル、家電製品・医薬品などがあります。それぞれ、採択事例を見ていきましょう。
中小企業者は「資本金1億円以下かつ常勤の従業員数100人以下」で、小規模事業者については「資本金の規定なしで、常勤の従業員数5人以下」という規定があります。個人事業主と小規模事業者も、中小企業者に含まれます。
なお、事業再構築補助金は中小企業者と中堅企業者を対象とするため、コンビニチェーン店や大手スーパーなどの大手事業者は対象外です。
焼きたてパンの製造・販売⇒焼成後冷凍パンの製造・販売(事業転換)
焼き立てパン屋が冷凍パンの製造・販売へ事業転換した採択事例があります。
この事業者は地元食材を使用した焼きたてパンとして評判の高いパン屋の店舗を経営していましたが、パンの賞味期限の短さと廃棄、店内在庫、回転率の悪さという課題を抱えていました。
解決には集客を増やす方法もありますが、店の立地や社会情勢を考え、すぐに解決できるものではありませんでした。
瞬間冷凍機を購入し、焼きたてのパンを瞬間冷凍してECサイトを通じて全国に届ける事業計画を立てました。
食品廃棄などのSDGsを含む課題が解決しつつ、元々ある評判の高いパンという強みを活かしながら、ECサイトの活用での集客・販路拡大が見込めています。
専門食品卸売⇒食品メーカーへ転換(業種転換)
干し芋をメーカーから卸販売していた事業者が、干し芋専門の食品メーカーへ業種転換した採択事例があります。
この事業者は干し芋の取引に関する豊富な経験をもとに、サツマイモの生産者に対する干し芋コンサルティングも行ってきていました。
事業自体は順調でしたが、サツマイモの生産者からサツマイモの売上減少や後継者不足などの悩みを聞きながらのメーカーとのやりとりと卸売業の両立が難しく、課題に感じていました。
これまでの事業の業務効率化と収益アップ、さらに地元サツマイモ農家を買い支えのため、自らが干し芋メーカーへの転換を図る事業計画を立てました。
これまでの干し芋に特化した豊富な経験や、生産者とのコネクションなど既存事業とのシナジーによる成長が見込めます。
呉服店⇒オンラインショップ・着物撮影スタジオ(業態転換)
20年以上前から地元で呉服店・着物の小物販売・着物のお直し事業を行ってきた事業者がオンラインショップ・着物撮影スタジオに業態転換した採択事例があります。
近年は安価なネットショップなどに押され、収入が減少傾向にありました。着物人口の減少から既存顧客をつなぎとめるDM発送や囲い込みも順調ではなく、新規一転ネットショップを立ち上げ、新規顧客を開拓する事業再構築を行いました。
これまで店内で商品撮影をしていたフローを変更し、着物撮影専用のスタジオを新設とネットショップ運用を実現しました。新入荷した着物や小物類の撮影だけでなく、着物を着て撮影したい顧客のためのレンタルスタジオにも流用するという建築資産を有効活用した事業計画です。
携帯キャリア店舗運営事業⇒ケーキショップ運営(事業再編)
携帯キャリア店舗運営事業の強みを活かして事業再編し、ケーキショップ運営をする採択事例があります。小売業においては、事業再編による事業再構築の事例が多く見られました。
この事業者は、創業から地域での携帯キャリアショップ運営という小売業とともに、子供向けのプログラミング教室の教育サービス事業と2業種を展開していた事業者ですが、地元の老舗ケーキショップが惜しまれつつ閉店したニュースを聞きました。
これまで2業種の店舗運営の経験を活かして事業再編し、地元の協力も得てケーキ店の名前とケーキ作りのノウハウを吸収しました。老舗ケーキショップの閉店から約1年後、再構築した事業としてケーキショップ運営事業を立ち上げています。
事業再構築補助金の卸売業の採択事例
小売業と生産者をつなぐ卸売業は、国内には数多く存在します。事業再構築補助金が申請できるのは、中小企業者と中堅企業者です。
中小企業者は「資本金1億円以下かつ常勤の従業員数100人以下」で、小規模事業者については「資本金の規定なしで、常勤の従業員数5人以下」という規定があります。
なお、要件を満たせば個人事業主と小規模事業者も中小企業者に含まれますが、大手事業者は対象外です。
家電・雑貨の輸入と卸売販売⇒食品メーカー(新分野展開)
過去に食品の卸売業をし、飲食店経営(レストラン)を行ってきた事業者が食品メーカーとして新分野展開した採択事例があります。
飲食店を経営してきましたが、売上減少により以前行っていた卸売業での取引先やレストラン経営で培ったノウハウをもとに、自宅でレストランの味を手軽に再現できるミールキットを新たに開発・販売する食品メーカーとして事業を再構築することにしました。
酒類の卸売業・氷の仕入れ販売⇒業務用冷凍食品販売・冷凍食品自動販売機事業(事業転換)
これまで酒類の卸売と氷の仕入れ販売を行っていた事業者が、業務用冷凍食品販売・冷凍食品自動販売機事業に転換した採択事例があります。
小売店からの酒類および氷の発注数が減ったことから、卸売業で培った取引ルートやノウハウを活かし、今後さらに需要が見込まれる冷凍食品の販売事業に転換しました。
主な投資は、大型冷凍庫と非接触で販売できる冷凍食品用の大型自動販売機です。自動販売機を導入することで、接客担当のスタッフを雇用しなくても事業が進められます。
自社商品の卸売業⇒工場兼販売所を立ち上げ内製化(業種転換)
卸売業から食品の自社工場兼販売所を立ち上げて内製化した業種転換の採択事例があります。
この事業者はこれまで主に食品を製造販売し地元近隣の小売店に販売してきましたが、小売店と折衝をする人材の確保に苦難していました。製品の箱詰めや出荷などを行う人材が折衝も兼ねると、業務効率が落ちる課題がありました。
そこで卸売業から製造と販売と行うべく自社工場兼販売所を新設し、自社製品をつくるだけでなく販売まで一貫して行うOEM事業への転換を図りました。
自社工場兼販売所を新設によって新たな地域の雇用を創出し、作業効率と収益がアップにつながっています。
土産物の化粧品の卸販売⇒自社化粧品の製造・ECサイト構築経由の販売(業態転換)
観光地で販売する土産物の化粧品を複数卸売していた事業者が、ECサイト構築して自社化粧品の製造・販売へ業態転換した採択事例があります。
観光に関わる化粧品の卸売をしていましたが、観光需要に左右されるだけでなく、観光シーズンか否かでも波がある点を課題としていました。そこで自社のECサイトを立ち上げ、自社オリジナルの化粧品の製造・販売に加え、既存メーカーからも取り寄せた数々の化粧品を販売することを思いつきました。
これまでの卸売の経験を強みとして活かしつつ、収益を得られるチャネル(集客経路)を複数もつことにつながっています。
野菜の卸売業⇒高齢者需要の高い調剤薬局事業(事業再編)
これまで野菜やきのこなど生産者として近隣の小売店に卸売をしていた事業者が、高齢者需要の高い調剤薬局事業へ事業再編した採択事例があります。
もともと野菜の生産者として事業を行っていましたが、元々の野菜販売に需要と供給の波があり、近隣にスーパーが新規出店されたことで収入の不安定さ・売上減少が課題になっていました。
商工会に相談したところ「地元の医者が薬局を立ててほしいという声があがっている。現在の野菜の作業場は病院の近くで立地がよい。薬局としてやり直さないか」という提案を受けました。
そこで、不足分のノウハウや人材を事業統合し、調剤薬局事業へと事業再編を行いました。
小売業・卸売業が事業再構築補助金で申請できる補助対象経費
小売業・卸売業が事業再構築する内容は多岐にわたりますが、実際に事業再構築補助金に応募するときに経費として申請できる「補助対象経費」であるかを確認したうえで事業計画を作成する必要があります。
【事業再構築補助金における対象経費】
経費項目 | 詳細 |
①建物費 | 建物の建築・改修、建物の撤去など |
②機械装置・システム構築費 (リース料を含む) |
機械装置、情報システムの購入など |
③技術導入費 | 特許権や商標権のライセンスなど |
④専門家経費 | コンサル料や専門家への謝金など |
⑤運搬費 | 運搬料、宅配・郵送料など |
⑥クラウドサービス利用費 | Webツールなどのクラウドサービス利用費 |
⑦外注費 | 製品開発に要する加工、設計などの費用 |
⑧知的財産権等関連経費 | 特許権に関する士業の手続代行費用など |
⑨広告宣伝・販売促進費 | 広告作成、媒体掲載、展示会出展など |
⑩研修費 | 教育訓練費、講座受講 などの費用 |
⑪廃業費 | 廃止手続費、解体費などの費用 |
参考:第12回公募要領|事業再構築補助金
小売業・卸売業に限らず、事業再構築補助金の補助対象経費は、補助事業(新たに事業再構築として行う事業)でのみ使える項目に限ります。
たとえば、乗用車、事務所、パソコンなどの情報端末、従業員の給与、製品の原材料など、既存の事業でも利用できる汎用性の高いものは補助の対象外です。
ここでは、小売業・卸売業が事業計画を立案した場合、利用すると思われる主要な補助対象経費を紹介します。
建物費
建物費は、補助事業でのみ使える建物が補助の対象となります。
【建物費の要件】
①専ら補助事業のために使用される事務所、生産施設、加工施設、販売施設、検査施設、共同作業場、倉庫その他事業計画の実施に不可欠と認められる建物の建設・改修に要する経費
②補助事業実施のために必要となる建物の撤去に要する経費
③補助事業実施のために必要となる賃貸物件等の原状回復に要する経費
④貸工場・貸店舗等に一時的に移転する際に要する経費(貸工場・貸店舗等の賃借料、貸工場・貸店舗等への移転費等)
なお、建物の新築については必要性が認められた場合に限り補助対象とすることができます。補助事業のために建物の新築を考えている人は「新築の必要性に関する
説明書」を提出してください。
機械装置・システム構築費
小売業から製造業に移行する場合、卸売業が宅配業に移行する場合など、機械装置・システム構築費がかかります。
事業再構築補助金では、次の通り、補助事業でのみ使う機械装置・システム構築費が補助の対象であり、その設置や改良・修繕・運搬等も補助の対象となります。
【機械装置・システム構築費の要件】
①専ら補助事業のために使用される機械装置、工具・器具(測定工具・検査工具等)の購入、製作、借用に要する経費
②専ら補助事業のために使用される専用ソフトウェア・情報システム等の購入・構築、借用に要する経費
③ ①又は②と一体で行う、改良・修繕、据付け又は運搬に要する経費
なお、既存の機械装置の単なる買い替えに伴う費用は補助対象外です。「構築物」「船舶」「航空機」「車両及び運搬具」に係る経費も対象外となるため、申請する経費が対象外の品目に指定されているものではないかを確認しましょう。
運搬費
運搬費は、運搬料、宅配・郵送料等に要する経費のことで、工場新設のために必要となる物品の運搬費や宅急便の代金などが対象です。
機械装置・システム構築で機材などを運搬する場合、機械装置・システム構築費の方に含めます。
クラウドサービス利用費
クラウドサービス利用費は、各種IT企業等が販売しているクラウドサービスの加盟料・登録料・利用料などに関わる経費を指します。
ECサイトを構築して事業再構築を行う場合など、ECサイトのクラウドサービス利用費を補助対象経費として計上できます。
なお、ECサイト構築を伴う事業再構築補助金の採択事例や補助対象経費については、関連記事をご覧ください。
広告宣伝・販売促進費
補助事業に関わる広告宣伝・販売促進費とは、パンフレット、写真、動画等の作成及び媒体掲載、展示会出展(海外展示会を含む)、セミナー開催、市場調査、営業代行利用、マーケティングツールの活用等に関わる経費のことです。
これまで行っていた事業を別の方向に舵を切るため、事業を説明し、アピールするチラシや冊子を作ります。
この記事のまとめ
事業再構築補助金では、小売業・卸売業を営む事業者も数多く採択されています。
小売業・卸売業の採択事例では製品・商品を販売するだけでなく製造に回る事業者や、地元の高齢者や商工会に打診されて全く別の業種に転換するケースが見受けられます。
事業再構築補助金には対象経費として11種類の項目が定められています。申請する経費が事業再構築補助金において補助対象となるかを事前に確認しておきましょう。