IT導入補助金は個人事業主も利用できる!申請のポイントを解説
2024/10/21
2024/9/27
IT導入補助金は、個人事業主も利用できる補助金です。IT導入補助金では一部の申請枠を除き、中小企業以下の事業規模に該当する個人事業主または法人が対象であると定められているほか、過去には個人事業主の採択事例もあります。
当記事では、IT補助金を個人事業主が申請するときのポイントを解説しています。「法人が申請するときとの違い」や「個人事業主が申請するときの注意点」が明確になるため、個人事業主としてIT導入補助金の利用を検討している人は参考にしてみてください。
なお、当記事はIT導入補助金2024の公式サイトの情報をもとに作成しています。
目次
ポイントは個人事業主と法人の相違点を確認すること
個人事業主がIT導入補助金へ申請するときのポイントは、個人事業主と法人の相違点を確認しておくことです。
IT導入補助金は、ソフトウェアやパソコンなどITツールの導入による事業者の生産性向上を支援する補助金制度であり、要件を満たす事業者であれば個人事業主でも利用できます。しかし、申請においては個人事業主と法人とで一部異なる部分があるため、それぞれの相違点を確認しておきましょう。
【個人事業主と法人の相違点】
- 事業規模の定義
- 事務局への提出書類
IT導入補助金の申請における個人事業主と法人のおもな違いは「事業規模の定義」と「事務局への提出書類」です。個人事業主の性質上、事業規模の定義と提出書類には法人と異なる要件が設けられているため、個人事業主としての要件を満たすことが求められます。
要件を満たすことができれば、個人事業主もIT導入を補助金へ申請できます。申請において法人とは一部異なる部分があるため、個人事業主としてIT導入補助金へ申請する場合は、法人との相違点を踏まえて不備のない申請を行いましょう。
なお、IT導入補助金は事業者向けの補助金であり、開業届を提出せずにフリーランスとして実施している事業は事業規模にかかわらず補助対象外となります。
事業規模の定義の違い
IT導入補助金において、個人事業主と法人では対象となる事業規模の定義が異なります。IT導入補助金では中小企業に該当する個人事業主も対象となりますが、「中小企業」の定義は業種ごとに定められており、個人事業主と法人とで条件に違いがあります。
【中小企業と小規模事業者の定義】
業種 |
個人事業主の条件 |
法人の条件 |
①製造業、建設業、運輸業 |
常時使用する従業員の数が300人以下 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下又は常時使用する従業員の数が300人以下 |
②卸売業 |
常時使用する従業員の数が100人以下 |
資本金の額又は出資の総額が1億円以下又は常時使用する従業員の数が100人以下 |
③サービス業 |
常時使用する従業員の数が100人以下 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下又は常時使用する従業員の数が100人以下 |
④小売業 |
常時使用する従業員の数が50人以下 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下又は常時使用する従業員の数が50人以下 |
⑤ゴム製品製造業 |
常時使用する従業員の数が900人以下 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下又は常時使用する従業員の数が900人以下 |
⑥ソフトウェア業 又は情報処理サービス業 |
常時使用する従業員の数が300人以下 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下又は常時使用する従業員の数が300人以下 |
⑦旅館業 |
常時使用する従業員の数が200人以下 |
資本金の額又は出資の総額が5千万円以下又は常時使用する従業員の数が200人以下 |
⑧その他業種(上記以外) |
常時使用する従業員の数が300人以下 |
資本金の額又は出資の総額が3億円以下又は常時使用する従業員の数が300人以下 |
参考:公募要領(通常枠)p.5「2-2-1 申請の対象となる事業者及び申請の要件」|IT導入補助金2024
法人の場合、中小企業に該当する条件は「資本金の額または出資の総額」または「常時使用する従業員の数」によって定められています。たとえば、「③サービス業」においては、常時使用する従業員数が100人を超えていても、資本金が5千万円以下の事業者であれば中小企業に該当します。
一方、個人事業主の場合、資本金がないため中小企業に該当する条件は「常時使用する従業員の数」のみで判断されます。たとえば、「③サービス業」においては、常時使用する従業員数が100人を超えている事業者は中小企業の定義から外れることになります。
IT導入補助金では、法人の場合は資本金または従業員数によって事業規模が判断されますが、個人事業主の場合は事業規模の判断基準が常時使用する従業員数のみとなります。個人事業主としてIT導入補助金へ申請するときは、従業員数が中小企業の範囲に収まっているかを確認しましょう。
なお、常時使用する従業員とは、労働基準法第20条の規定に基づく「予め解雇の予告を必要とする者」を指します。個人事業主本人や役員を除くアルバイトや社員等が該当する可能性があるため、従業員を雇用している場合は中小企業庁の「中小企業の定義に関するよくある質問」も参考にしてみてください。
事務局への提出書類の違い
IT導入補助金において、個人事業主と法人では事務局への提出書類が異なります。IT導入補助金へ申請する際に、個人事業主と法人はいずれも「申請者の証明書類」と「事業実態確認書類」を提出する必要がありますが、それぞれ提出する書類の種類に違いがあります。
【IT導入補助金における提出書類】
項目 |
個人事業主 |
法人 |
申請者の証明書類 |
運転免許証(運転経歴証明書)または住民票 |
履歴事項全部証明書 |
事業実態確認書類① |
直近分の所得税の納税証明書 |
直近分の法人税の納税証明書 |
事業実態確認書類② |
直近分の確定申告書の控え |
– |
法人の場合、事務局への提出書類は「履歴事項全部証明書」と「法人税の納税証明書」の2種類です。法人は申請者の証明書類として履歴事項全部証明書が必要となるほか、事業実態確認書類として法人税の納税証明書を提出します。
一方、個人事業主の場合、事務局への提出書類は「運転免許証または住民票」「所得税の納税証明書」「確定申告書の控え」の3種類です。個人事業主は本人確認書類として履歴事項全部証明書の代わりに運転免許証や住民票を提出するほか、事業実態確認書類として所得税の納税証明書に加え確定申告書の控えが必要です。
IT導入補助金に申請する場合、個人事業主と法人では事務局への提出書類が異なります。個人事業主は法人よりも提出書類が多く、事業実態確認書類を2種類用意しなければならないことに留意して不足のないように準備をしましょう。
なお、納税証明書と確定申告書は、税務署が発行もしくは受領したものに限られます。確定申告書は税務署が受領したことが分かるものでなければならないため、収受日付印が押印されていない場合は添付書類として認められません。
相違点を押さえた人は個人事業主と法人の共通点も確認しておく
IT導入補助金における個人事業主と法人の相違点を押さえた人は、共通点も確認しておきましょう。制度の内容や審査の方法などは個人事業主と法人によって区別されることはなく、要件を満たす事業者であれば個人事業主も法人と同様にIT導入補助金へ申請することができます。
【個人事業主と法人の共通点】
- 申請できる枠
- 満たすべき申請要件
- 申請の手順
- 審査の内容
IT導入補助金における個人事業主と法人の共通点には「申請できる枠」「満たすべき申請要件」「申請の手順」「審査の内容」が挙げられます。これらの項目は、公募要領において個人事業主と法人による区別はされていません。
個人事業主も法人と同様、公募要領において定められている要件や手順に従って申請を行う必要があります。IT導入補助金における個人事業主と法人の相違点を押さえた人は、共通の項目も確認して制度への理解を深めましょう。
申請枠
IT導入補助金において、個人事業主と法人が申請できる枠は共通です。個人事業主も法人も「通常枠」「インボイス枠(インボイス対応類型)」「インボイス枠(電子取引類型)」「セキュリティ対策推進枠」の中から、事業の目的に合った枠をひとつ選んで申請することになります。
【IT導入補助金2024の申請枠一覧】
枠 |
概要 |
対象経費 |
補助額/補助率 |
通常枠 |
事業課題にあったITツールの導入を支援する |
|
【補助額】 最大450万円 ※導入するソフトウェアの機能数により異なる 【補助率】 1/2 |
インボイス枠 (インボイス対応類型) |
インボイス制度に対応したソフトウェアやハードウェアの導入を支援する |
|
<ソフトウェア等> 【補助額】 最大350万円 【補助率】 2/3~4/5 ※事業規模やソフトウェアの機能数等により異なる <ハードウェア> 【補助額】 最大20万円 (PC、タブレットは最大10万円) 【補助率】 1/2 |
インボイス枠 (電子取引類型) |
インボイス制度に対応した受発注システムの商流単位での導入を支援する |
(クラウド利用料最大2年分) |
【補助額】 最大350万円 【補助率】 中小企業・小規模事業者:2/3 その他事業者:1/2 |
セキュリティ対策推進枠 |
サイバー攻撃によるリスクを低減するためのITツールの導入を支援する |
(導入費用とサービス利用料最大2年分) |
【補助額】 5万円以上100万円以下 【補助率】 1/2 |
たとえば、IT導入補助金を利用してPCを導入したい場合、個人事業主も法人も「インボイス枠(インボイス対応類型)」へ申請をします。インボイス対応類型は、インボイスに対応した「会計」「受発注」「決済」機能をもつソフトウェアと、そのソフトウェアを利用するためのPCやレジなどが補助対象です。
個人事業主も法人も、IT導入補助金において申請できる枠や補助内容に違いはありません。ただし、事業規模や導入するITツールの内容により補助額の範囲や補助率が異なる場合があるため、申請する際には自身の条件においていくらの補助金を受け取れる可能性があるのか計算しましょう。
なお、IT導入補助金には地域のサプライチェーンや組合単位で申請できる「複数社連携IT導入枠」もあります。その他の申請枠とは制度の内容が異なるため、複数社連携IT導入枠について詳しく知りたい人は「IT導入補助金の複数社連携IT導入枠とは?」を参考にしてみてください。
申請要件
IT導入補助金において、個人事業主と法人の申請要件は共通です。申請にあたって満たすべき要件は個人事業主も法人も同じであり、個人事業主も公募要領に記載されている申請要件をすべて満たす必要があります。
【申請要件(各枠の共通要件から一部抜粋)】
- 交付申請時点において、日本国内で法人登記され日本国内で事業を営む者であること
- 交付申請の直近月において、申請者が営む事業場内の最低賃金が法令上の地域別最低賃金以上であること
- gBizID プライムを取得していること
- 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施する「SECURITY ACTION」の「★ 一つ星」又は「★★ 二つ星」いずれかの宣言を行うこと
- 交付申請に必要な情報の入力と添付資料の提出を行うこと
- 申請の対象外に該当する事業者でないこと
参考:公募要領(通常枠)p.6 申請要件|IT導入補助金2024
上記のほかにも、情報提供への同意や不正行為の禁止などに関するさまざまな要件が定められています。IT導入補助金には複数の申請要件がありますが、個人事業主が追加で満たす必要のある要件や、個人事業主であることを理由に免除となる要件はありません。
なお、個人事業主と法人で異なる要件はないものの、申請する枠によって追加の要件が設けられている場合があります。申請の際に1つでも満たせていない要件がある場合は不採択になるため、かならず申請する枠の公募要領に目を通して、すべての要件を満たしていることを確認しましょう。
IT導入補助金へ申請するための条件を詳しく知りたい人は「IT導入補助金に申請するための条件を解説」の記事もあわせて参考にしてみてください。
申請手順
IT導入補助金において、個人事業主と法人の申請手順は共通です。個人事業主と法人で申請手順に違いはありませんが、手順を守らずに申請を行った場合は不採択となることや補助金を受給できなくなることがあるため、申請を検討している人は申請手順を確認しておきましょう。
【IT導入補助金への申請手順】
手順 |
詳細 |
①公募要領の確認 |
申請する枠の公募要領を読みIT導入補助金への理解を深める |
②申請前の各種手続きの実施 |
申請に必要となる手続きを実施する
|
③導入するITツールの選定 |
「ITツール・IT導入支援事業者検索」に登録されているITツールの中から導入するITツールを選定する |
④IT導入支援事業者の選定 |
導入したいITツールを取り扱うIT導入支援事業者を探す |
⑤必要書類の準備 |
交付申請の際に提出する書類を準備する |
⑥交付申請 |
IT導入支援事業者から「申請マイページ」への招待を受けて必要事項の入力と必要書類の送付を行う |
⑦交付決定 |
交付申請の内容をもとに審査が行われる。 交付決定者には交付決定通知が届く |
⑧ITツールの発注・契約・支払い |
交付決定通知の受領後にITツールを導入する ※交付決定前に発注・契約・支払いを行ったものは対象外となる |
⑨補助事業の実施 |
導入したITツールを用いて補助事業を実施する ※公募回によって補助事業実施期間が異なる |
⑩事業実績報告 |
補助事業の完了後、実際にITツールの発注・契約、納品、支払い等を行ったことが分かる証憑を提出する |
⑪補助金の受取 |
事業実績報告をもとに最終的な補助金額を決定する「確定検査」が実施される。 申請者による内容確認後、指定の口座へ補助金が振り込まれる |
⑫事業実施効果報告 |
補助事業の終了後、最長3年度にわたり事業の状況を報告する 報告内容は申請枠によって異なる |
IT導入補助金は後払いの制度であり、交付決定後に補助事業を実施する際には自己資金によりITツールを導入しなければなりません。ITツールの導入は交付決定から補助事業終了までに行う必要があり、交付決定前や補助事業終了以降に発注や支払いを行った場合は補助対象外となります。
また、IT導入補助金の申請方法は「申請マイページ」からの電子申請であり、電話や郵送による申請は受付けていません。申請マイページの作成にはIT導入支援事業者からの招待を受ける必要があるため、IT導入補助金の申請にはIT導入支援事業者からのサポートが必須となります。
個人事業主も法人も、IT導入補助金への申請手順は同じです。IT導入補助金ではスケジュールが細かく決められており、手順を守らなかった場合は補助金を受け取れなくなる恐れがあるため、申請を検討している人は補助金受け取りまでの手順を確認しておきましょう。
審査内容
IT導入補助金において、個人事業主と法人の審査内容は共通です。IT導入補助金の利用には審査がありますが、審査内容や審査方法は個人事業主と法人とで違いはなく、申請内容と提出書類をもとにした書類審査によって採択の可否が決定されます。
審査項目は「事業面」と「政策面」のそれぞれの観点が設けられており、申請枠によって内容が異なります。ここでは通常枠を例に、IT導入補助金2024における審査項目を紹介します。
【IT導入補助金2024通常枠の審査項目】
審査項目 |
内容 |
事業面 |
|
政策面 |
|
参考:公募要領(通常枠)p.21「3-3 交付申請の審査」|IT導入補助金2024
事業面では、おもに申請者の取り組みが事業の課題解決や目標達成につながるかどうかに焦点が当てられます。具体的な数値やデータを用いて、ITツールの導入が事業の成長や将来的な発展につながるかどうかを事業計画で示すことが求められます。
政策面では、おもにITツールの導入が国の政策目標にどのように貢献するかに焦点が当てられます。働き方改革や賃上げなど、IT導入補助金の目的としても定められている国の政策目標に貢献し得る取り組みであるかどうか審査されます。
また、通常枠の場合は申請要件として労働生産性の向上が定められており、その向上率も審査項目のひとつに含まれています。個人事業主と法人で審査内容が変わることはありませんが、申請枠によって審査項目が異なるほか、追加の審査項目が設けられている場合がある点に留意しましょう。
なお、審査には基本項目以外に「加点項目」と「減点項目」もあります。加点項目を取得すれば採択される可能性を高められる一方で、減点項目に該当すると採択につながりにくくなる恐れがあるため、申請を検討している人は基本の審査項目だけでなく加点項目と減点項目もあわせて確認してみてください。
申請に不安がある個人事業主はIT導入支援事業者へ相談する
IT導入補助金の申請に不安がある個人事業主は、IT導入補助金へ申請することも検討しましょう。申請においてはIT導入支援事業者への依頼が必須となりますが、「自分もIT導入補助金に申請できるのか」「IT導入補助金へ申請した場合にいくらもらえるのか」など、申請前の相談を受け付けている場合があります。
【IT導入支援事業者の役割】
- IT導入補助金の申請検討者の相談受付
- IT導入補助金への交付申請サポート
- ITツールの提供
- ITツール導入後のサポート
- 補助金受給後の実績報告や効果報告サポート など
IT導入支援事業者によって対応しているサポートの内容は異なりますが、IT導入補助金における申請者の幅広いサポートを実施しています。「IT導入補助金へ申請したいけど誰に相談したらよいか分からない」という個人事業主は、IT導入支援事業者へ相談することもひとつの方法です。
個人事業主としてIT導入補助金への申請を検討している人も、申請に関する疑問や不安がある場合は事前にIT導入支援事業者へ相談ができます。IT導入支援事業者について詳しく知りたい人は「IT導入支援事業者とは?IT導入補助金の申請における選び方と探し方を解説」の記事も参考にしてみてください。
まとめ
IT導入補助金は、個人事業主も申請できる補助金です。個人事業主が申請するときには法人との相違点を確認し、不備のない申請をすることがポイントです。
IT導入補助金における個人事業主と法人のおもな相違点は「事業規模の定義」と「事務局への提出書類」です。個人事業主には資本金がないため従業員数のみで事業規模を判断することになるほか、個人事業主が用意できない「履歴事項全部証明書」等は代わりの書類を用意することとなります。
相違点を押さえた人は、個人事業主と法人の共通点も確認しておきましょう。「申請枠」「申請要件」「申請手順」「審査内容」などは個人事業主と法人で区別されることはないため、個人事業主としてIT導入補助金へ申請する人も、公式サイトや公募要領の内容に沿って申請をしましょう。