「人を想う」経営で、訪問看護業界によりよい働き方を

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「人を想う」経営で、訪問看護業界によりよい働き方を

株式会社Bridge代表取締役 鳥谷 将由

PROFILE

株式会社Bridge

代表取締役 鳥谷 将由

東京で理学療法士として勤務し、大手訪問看護会社で経営を学んだ後、高知県にUターンして株式会社Bridgeを設立。全国19拠点に「えん訪問看護ステーション」を展開し、「人への投資」と「オープンマインドな情報の開示」を貫くことで、業界平均を大きく下回る離職率約6%を実現。 現在は訪問看護業界団体の運営アドバイザーも務め、柔軟な働き方の推進や業界全体の発展・質の向上に貢献する。

お話を伺ったのは、全国19拠点に訪問看護事業を展開する「株式会社Bridge」代表取締役の鳥谷 将由さん。
離職率の高い訪問看護業界で、高い人材定着率を実現させる鳥谷さんの「人を想う」働き方と、その軌跡を辿ります。

「人への投資」と「情報の開示」で人材が定着

― 訪問看護業界は慢性的な人材不足にあると聞きますが、その中でも、御社の定着率の高さが非常に印象的ですね。特別な取り組みを何か行っているのでしょうか?
鳥谷氏: ありがとうございます。訪問看護業界の平均離職率は15%前後と言われていますが、前期実績で約6%まで抑えられました。

高い人材定着率の理由を聞かれることは多いのですが、特別なノウハウや裏技があるわけではありません。やってきたのは、「人への投資」と「オープンマインドな情報の開示」です。求人では会社の理念や業務内容といった基本的なことに加え、社内での利用ツール、キャリアステップや給与モデル、有給消化率や産休取得率、社員の声などを事細かに掲載し、SNSでは、訪問看護の良い面だけでなく、厳しい現実も含めて発信しています。

現在、人材紹介会社やHP・SNSなどを通じて年間450件ほどの問い合わせをいただき、そこから年間約70人を採用していますが、結果としては「納得して入社する人」が増え、定着につながっている感覚があります。うちは社員みんなが大変ながらも楽しく働いているため、利用者様からも「スタッフの雰囲気がいい、元気がある」とお声をいただくことも多いですね。

また、ありがたいことに社員からは感謝の言葉をもらうことが多いのですが、 特に忘れられないのが、鹿児島の店舗に視察に行った際のことです。夜の懇親会で、隣のテーブルにいた4人の社員が「この会社に来てよかった」と泣きながら話していて…。それがもう嬉しくて、思わず貰い泣きしてしまいました。

身内の人生の転機を見守った経験と、

インドで触れた”人間が持つ可能性”が「人を想う」原点に

― とても心温まるエピソードですね…!鳥谷さんがそこまで「人を想う」ようになられた背景には、何かあったのでしょうか?
鳥谷氏: 祖父と弟の人生の転機に触れたことが「人を想う」ようになったきっかけですね。正直に言うと、若い頃の私は、そこまで人に向き合えていなかったと思います。しかし、祖父の死や、弟が自分の人生に真剣に向き合う姿をそばで見守った経験を通して「誰かの人生に小さな役割でも関わる意義」を強く感じました。

この原体験が訪問看護へ進むきっかけとなり、「人との縁を大事にする」という、おおよその経営判断の起点になっていますね。

経営は最初からすべてが順調だったわけではありません。ゼロからのスタートはやはり過酷でした。そこを耐え抜けたのは、若い頃のバックパッカー経験が活きていると感じます。

実は、初の海外旅行でいきなりインドへ行ったんです。世界一周航空券のルールに従ってルートを決めたら、一カ国目がインドになってしまって(笑)。貧富の差に衝撃を受けましたが、現地の皆さんは本当に貪欲で、バブルのような熱気と生きる力に溢れていて、”人間の可能性”を感じました。 ちなみに、有名なガンジス川には怖くて手だけ入れてみました。体ごと入った人たちは、高熱や謎の病気で大変なことになっていたので…。あの過酷な環境を肌で感じた経験が、経営の踏ん張りどころで自分を支えてくれています。

組織全体で「行動」するためには具体的な理念が必要

― 組織が拡大する中で、課題に直面したことはありましたか?
鳥谷氏: ええ、ありました。以前は「自分に家族に誇れる会社」というビジョンを掲げていたのですが、少し抽象度が高すぎまして。スタッフが100名を超えて組織が大きくなるにつれて、言葉だけが一人歩きしてしまい、具体的な行動指針として浸透しきれていないと感じていました。

今期からはブランディング会社の力を借りて、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を可視化した「ビジョンマップ」の策定と共有を強化しています。言葉を具体化し、全体朝礼や研修を通じてしつこいくらいに伝え続けることで、最近では「管理職も現場も社員が同じ方向を向いて、助け合いながら自立して自ら考えて行動している」という確かな手応えを感じつつあります。

「時短=キャリアダウン」の常識を変える制度を運営

― 働き方に関しても、かなりユニークな制度を取り入れていると伺いました。
鳥谷氏: はい。福祉業界では、出産や育児で時短勤務になると、どうしてもキャリアや評価が下がってしまう傾向があります。ですが、能力が高い人が子育てを理由にパート扱いされ、活躍の場を失うのは会社にとっても損失です。

そこで弊社では、勤務時間数に応じて正当に処遇を計算して「時短勤務でもキャリア(評価や時給)が落ちない評価制度」を構築しました。

― それは画期的ですね! 子育て世代にとっては非常に心強い環境です。
鳥谷氏: 現在、スタッフの7〜8割が子育て中ですが、高い出産率にも繋がっています。週1回、月1件というスポット的な働き方から、年収1,000万円を超える常勤まで、ライフステージに合わせて柔軟に働き方を選択できるようにしています。

私自身も社長業の傍ら、子の送り迎えや食事作りをしていますから、仕事と家庭の両立は「できる」と身をもって証明したいんです。

「地域を丸ごと支えるインフラサービス」を展開したい

― 訪問看護業界の柔軟な働き方を追及して「訪問看護ラボ」というレセプト(診療報酬明細書)作成業務の代行サービスも提供されているそうですね。
鳥谷氏:はい。訪問看護事業者の方々が訪問業務に専念でき、診療報酬請求に関する業務負担を軽減できるサービスを提供しています。「レセプト作業は有資格者でなく誰がやってもいい、有資格者が残業してまでやることが勿体ない」と感じたんです。

有資格者には「利用者様と向き合う時間」を増やしてほしいと考えているので、レセプト代行サービスの利用によって職場の効率化を向上させてもらいたいという想いがあります。

― 今後の展望についてお聞かせください。
鳥谷氏: 中長期的な目標として、10期で120店舗、売上100億円を掲げています。これは単なる数字の追求ではなく、必要な場所にサービスを届けるための通過点です。

経営の中で最も大切にしている価値観は「人との縁」なのですが、振り返ってみれば、私の経営におけるきっかけの8〜9割は縁によるもの。たとえば、ニーズがあるのにサービスが届いていない地域、東京都の新島村のような離島にも事業所を出店したのですが、新島村の方から「ぜひ来てほしい」とお声がけいただいた縁を形にした結果なんです。

訪問看護だけでなく、その地域に不足している訪問診療や居宅介護支援なども含め、地域を丸ごと支えるインフラサービスを作りたいと考えています。

訪問看護業界の未来のため、共に助け合い成長しよう

― 最後に、同じ業界で働く人や経営者の方々へメッセージをお願いします。
鳥谷氏: 訪問看護業界は、廃業率も高く、経営者が多くのリスクを背負っています。だからこそ、私は自分の失敗も含めて、SNSやYouTubeで情報をオープンにし、その情報を業界や従業員に還元してもらうことが、事業所の廃業を減らすことに繋がり、地域や利用者様のためになると考えています。

私は共に成長できる、助け合える仲間を常に求めています 。医療従事者の中で「キャリアか家庭か」の二者択一に悩んでいる方や、訪問看護業界を良くしたいという熱い想いを持つ経営者の方がいらっしゃたら、ぜひ一度お話ししましょう。

株式会社Bridge

働く人の豊かさが医療の質になる。離職率約6%の環境で架ける、安心と信頼の橋。
全国19拠点に事業展開する、訪問看護の成長企業。子育て中もキャリアを維持できる制度の確立や、レセプト代行サービス「訪問介護ラボ」を関連会社で提供し、社内外にかかわらず、医療・福祉従事者の柔軟な働き方の追及に邁進する。