ものづくり補助金の賃上げ要件とは?賃上げ特例も含め解説
2024/04/24
2022/6/20
ものづくり補助金の情報を集めていると、賃上げという言葉を目にすることがありますよね。「ものづくり補助金には賃上げが必要?」「従業員がいない場合は?」などの疑問を持つ人もいるでしょう。
当記事では、ものづくり補助金の賃上げ要件について具体的な計算方法を含め解説します。賃上げ加点と大幅な賃上げの特例に関しても紹介するので、ものづくり補助金の賃上げの概要を知りたい人は当記事を参考にしてみてください。
Contents
ものづくり補助金の賃上げ要件とは基本要件の一部
ものづくり補助金の賃上げ要件とは、基本要件の一部です。ものづくり補助金の基本要件は全部で3つあり、その中の「給与支給総額」と「事業場内最低賃金」の2要件が賃上げ要件に該当します。
基本要件とは、補助金に申請する人が必ず満たすべき条件のことです。ものづくり補助金の場合、申請する人は手続きの際に基本要件を満たす内容の事業計画を提出します。
【ものづくり補助金の3つの基本要件】
①給与支給総額の増加 | 給与支給総額を年平均成長率1.5%以上増加 |
②最低賃金の引き上げ | 事業場内最低賃金を毎年、地域別最低賃金+30円以上 |
③付加価値額の増加 | 事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加 |
参考:令和元年度補正・令和3年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
給与支給総額は給与、各種手当、賞与を合算した金額を指します。
たとえば、職員2名で運営される事業所の年間給与が600万円、手当が50万円、賞与が100万円の場合、この事業所の給与支給総額は750万円と計算できます。
また、事業場内最低賃金は、事業所内で働く全従業員の給与を時給換算したうち最も低い金額です。たとえば、2人のスタッフの年間給与合計が700万円となる東京都の事業所の場合、年間給与を年間労働時間※で割ると1,822円になるので、東京都の最低時給(1,143円+30円を超えることがわかります。
※ひと月160時間×2名×12か月=3,840時間 で換算
ものづくり補助金では賃上げが基本要件となっています。ものづくり補助金に申請する際は「設備投資によって給与や時給を何パーセント賃上げするのか」という賃上げ目標も合わせてを申請することになるので、覚えておきましょう。
なお、賃上げ要件という名称は、ものづくり補助金の公式サイトには記載がありません。公式サイトからダウンロードできる公募要領の中では、賃上げは基本要件の一部として説明されるため注意してください。
給与支給総額を増加させて賃上げする
給与支給総額を増加させて賃上げするには、給与支給総額に含まれるものの金額を上げる計画を立てることです。給与支給総額には、税金や社会保険料を控除する前の給料、賃金、賞与、残業手当などが含まれます。一方、退職手当や福利厚生費は、給与支給総額には含まれません。
【給与支給総額に含まれるものと含まれないもの】
含まれるもの | 含まれないもの |
|
|
参考:令和元年度補正・令和3年度補正 ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 公募要領(18次締切分)1.1版|ものづくり補助金
給与支給総額に含まれるものの金額が分かれば、給与支給総額の賃上げ計画が立てられます。
たとえば、申請前1年間の給与等が300万円の従業員の場合、300万円に1.5%を乗じると4.5万円です。基本要件には「年平均成長率1.5%以上」とあるため、給与支給総額が毎年4.5万円ずつ上がる3年後に313.5万円となる事業計画を立てれば要件を満たせます。
給与支給総額に含まれるものの金額が分かれば、給与支給総額の賃上げ計画が立てられます。賃上げ計画を立てる際は、事業者が賃上げで支出する人件費の増加と共に、ものづくり補助金でどれほど補助金額を受け取れるのかを試算することも忘れずに行いましょう。
なお、2024年3月に締め切られた18次公募の場合、給与支給総額の要件を満たすタイミングは、2024年12月10日までに終える補助事業を行ったあとの3年〜5年の事業計画の終了時となります。賃上げが審査されるのは採択されて数年たった後なので、申請する人は賃上げを忘れずに行うよう留意しましょう。
従業員なしの場合は役員報酬で計算する
従業員がいない場合は、役員報酬を上げることで賃上げが可能です。なぜなら、公募要領には給与支給額に役員報酬も含まれると記載されているからです。
従業員がいない場合 | 従業員がいる場合 |
|
|
たとえば、給与支給総額の基本要件の場合、役員報酬が年間で税込み500万円だとすると「500万円×1.5%=7.5万円」と計算できます。3年の事業計画なら「7.5万円×3年=22万5千円」となるため、役員報酬を3年で22万5千円増やせば、給与支給総額の最低ラインの要件は満たせます。
従業員がいない個人事業主は、役員報酬を使って賃上げできます。ただし、ものづくり補助金の審査項目では「地域の事業者や雇用」も重視されています。数年経っても従業員が増えない事業計画は、審査で評価が低くなる可能性もあるので留意しておきましょう。
正社員を含めた時給を比較して最低賃金を引き上げる
最低賃金の引き上げをする際は、正社員を含めた常時働くすべての従業員の時給を計算し、その上で地域別最低賃金と比較します。事業場内最低賃金と事業所のある地域の最低時給を比較し+30円以上であれば、既に要件を満たしていることになります。
事業場内最低賃金とは「基本給」と「諸手当」が合算された数値です。従業員に支払う毎月の給与のうち基本給と諸手当を申請前の過去の1年分で合計し、過去申請前の1年分を計算すると、事業場内最低賃金を求められます。
【東京の事業所の場合】
毎月の給与または役員報酬 |
従業員の給与から計算された時給/計算式 ※月間22日勤務で1日8時間勤務で計算した場合 |
|
従業員A | 基本給20万円+諸手当なし=20万円 | 1,136円 /20万円÷22日÷8時間=1,136円 |
従業員B | 基本給18万円+諸手当4万円=22万円 | 1,250円 /22万円÷22日÷8時間=1,250円 |
従業員C | 基本給20万円+諸手当5万円=25万円 | 1,420円 /25万円÷22日÷8時間=1,250円 |
※東京の地域別最低賃金は2024年4月現在、1,113円
たとえば、従業員Aの場合、基本給が20万円で諸手当はありません。基本給20万円を「月間平均出勤日数(例.22日)」と「1日の平均勤務時間(例.8時間)」で割ると、従業員Aの時給は1,136円となります。東京都の最低時給+30円(1,143円)と比較すると、要件を満たさないことがわかりました。
従業員Aのように、事業所の中に地域別最低賃金より時給が下回る従業員がいる場合は、ものづくり補助金に採択された場合、事業計画の実施中に賃上げすることになります。事業場内最低賃金の要件は申請時に満たしている必要はありませんが、採択後に実施する事業計画期間中に賃上げを確認されるので覚えておきましょう。
なお、常時働く従業員には、単発で働く派遣社員やアルバイトは含みません。
賃上げ要件が未達だと補助金の返還対象になる
賃上げ要件が未達の場合は、補助金の返還対象になります。ものづくり補助金では賃上げが基本要件として設定されているため、事業者が採択されて補助金を受け取ったとしても、賃上げができない場合は補助金を返還しなくてはなりません。
【補助金の返還の対象となる要件】
|
賃上げが達成できたかの評価は、補助金の振込のあとに6年間にわたり行われる「事業化状況報告」で確認されます。ものづくり補助金に採択されても、毎年3月に提出する賃金台帳で賃上げが確認できないと補助金の返還対象となります。採択された人は、事業計画に沿って賃上げを行っていきましょう。
一定以上の賃上げをすると加点となる
一定以上の賃上げをするとものづくり補助金の審査でプラスの評価をしてもらえる加点を取得できます。一定以上の賃上げとは、給与支給総額事業場内が年平均成長率3%〜6%以上、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+50円以上ずつ賃上げされることです。
【賃上げ加点の概要】
以下の(ア)または(イ)を満たす事業計画を申請時に事務局へ提出すること (ア)
毎年+50円以上ずつ増加(初回 は応募時を起点とする) (イ)
毎年+50円以上ずつ増加(初回は応募時を起点とする) |
賃上げの加点の要件は(ア)(イ)と2種類あります。いずれも地域別最低賃金に関する要件は、地域別最低賃金より+50円以上ですが、給与支給総額の要件は(ア)よりも(イ)の方がより高い賃上げを求められます。
ものづくり補助金の公式サイトでは、「加点を取得すればするほど採択率が高くなる」というデータが公開されています。基本要件を上回る賃上げをする予定がある事業者は、加点の取得も検討してみてください。
なお、ものづくり補助金の加点は賃上げ以外にも複数あります。加点に関心のある人は、「ものづくり補助金の加点の取得方法を解説」を参考にしてみてください。
2024年からは大幅賃上げの特例がある
2024年の公募回からは大幅賃上げの特例が追加されました。特例とは、基本要件と加点とは異なる別のルールです。特例の要件を満たせる人は、従業員数に合わせて補助金額が大幅に引き上げられます。
補助金額の引き上げは最大2,000万円となり、大幅賃上げの特例の要件を満たすと、ものづくり補助金の補助金額に加算されます。
大幅賃上げの特例 |
(1)給与支給総額をさらに年平均成長率4.5%以上 (2)事業場内最低賃金をさらに毎年、年額+50円以上増額する (3)応募時に大幅な賃上げに関する計画書を提出する |
補助金額の引上げ額 |
省力化(オーダーメイド)枠 |
従業員数5人以下 :上限から最大250万円 6~20人 :上限から最大500万円 21~50人 :上限から最大1,000万円 51~99人 :上限から最大1,500万円 100人以上:上限から最大2,000万円 |
|
製品・サービス高付加価値化枠、グローバル枠 |
|
従業員数5人以下 :上限から最大100万円 6人~20人:上限から最大250万円 21人以上 :上限から最大1,000万円 |
大幅な賃上げの給与支給総額の特例の要件は、基本要件の1.5%+大幅賃上げの特例の4.5%ので年平均成長率が合計6%以上の賃上げが必要です。年平均成長率は、3年や5年の事業計画中に賃上げした割合を1年分に換算したものです。
たとえば、3年の事業計画を提出する事業者の場合、1年目から3年目まで毎年6%の賃上げを実行すると、給与支給総額の特例要件を満たします。給与支給総額が1,000万円なら、毎年60万円の増額を3回すると、大幅な賃上げ特例のうち1つ目を満たします。
また、事業場内最低賃金の特例の場合は、事業場内最低賃金が地域別最低賃金から+50円、翌年以降も+50円の賃上げで達成できます。事業場内最低賃金が1,000円、地域別最低賃金が1,100円なら、事業計画の1年目は1,150円、2年目以降は50円ずつ賃上げすれば大幅な賃上げ特例の2つ目を満たします。
大幅な賃上げ特例が適用されると、採択された場合、事業者の補助金額は大幅に増額されます。ただし、大幅な賃上げ特例には対象事業者が設定されています。申請時に各申請枠の補助対象経費を上限まで申請しない場合や、再生事業者、常勤従業員がいない場合は活用できないので留意しましょう。
この記事のまとめ
ものづくり補助金の賃上げ要件とは、基本要件の一部です。ものづくり補助金の基本要件は全部で3つあり、その中の「給与支給総額」と「事業場内最低賃金」の要件が賃上げ要件に該当します。給与支給総額は、給与、各種手当等の合算、事業場内最低賃金は「基本給」と「諸手当」の合算を意味します。
従業員がいない場合は、役員報酬を上げる計算方法で賃上げが可能です。なぜなら、ものづくり補助金の公募要領には給与支給総額に役員報酬を含むと記載されているからです。従業員がゼロの個人事業主でも、役員報酬を上げる賃上げを計画すれば、基本要件は満たせます。
給与支給総額事業場内が年平均成長率3%〜6%以上、事業場内最低賃金が地域別最低賃金より+50円以上ずつ賃上げをすると、加点になります。加点とは、ものづくり補助金の審査でプラスの評価をしてもらえることです。賃上げをする予定のある事業者は加点の取得も検討してみましょう。