補助金ガイド

ものづくり補助金は賃上げが必須なのか?要件を解説

2024/07/01

2024/6/10

この記事の監修

株式会社SoLabo 代表取締役/税理士有資格者田原広一(たはら こういち)

融資支援実績6,000件超、補助金申請支援実績1,300件超、事業再構築補助金採択支援件数は第4回~第8回まで5回連続で日本一を獲得。 『小規模事業者持続化補助金』、『事業再構築補助金』、『IT導入補助金』は自社での申請・採択も経験。「補助金ガイド」LINE公式アカウントでは約4万人の登録者に情報発信を実施。

ものづくり補助金の受給には、さまざまな要件があります。「賃上げの要件」「事業内容の要件」「売上高の要件」など、複数の要件が公募要領に記載されているため、公募要領の中から申請者にとって必須となる要件を確認しなければなりません。

当記事では、ものづくり補助金の受給に賃上げが必須かどうかを解説します。申請者が必ず満たさなければならない基本要件も紹介するため、ものづくり補助金の申請を検討している人は参考にしてみてください。

なお、当記事はものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業公募要領(18次締切分)を参考に作成しています。

賃上げは基本要件に含まれるため必須

ものづくり補助金を受給するためには、賃上げが必須です。賃上げはものづくり補助金の基本要件に含まれる関係上、ものづくり補助金の受給に賃上げは必須となるため、ものづくり補助金を申請予定の人は賃上げに関する基本要件を確認してみましょう。

【賃上げに関する基本要件】

項目

基本要件

給与支給総額の増加

年平均成長率+1.5%増加

最低賃金の引き上げ

地域別最低賃金+30円以上

参考:公募要領 18次締切分(p.14|ものづくり補助金

賃上げに関する基本要件は「給与支給総額の増加」と「最低賃金の引き上げ」です。基本要件は2つの賃上げ要件を含めた計3つの要件を満たす3年から5年の事業計画を策定することとなるため、ものづくり補助金を申請予定の人は賃上げに関する基本要件の概要を押さえておきましょう。

給与支給総額の増加

賃上げに関する基本要件のひとつは「給与支給総額の増加」です。基本要件では、3年から5年の事業計画終了時点での給与支給総額の年平均成長率が1.5%以上増加と定められているため、まずは給与支給総額の増加に関する基本要件を確認してみましょう。

【給与支給総額の概要】

項目

概要

対象となる人

非常勤を含む全従業員および役員

対象となる費用

給料、賃金、賞与、各種手当、役員報酬など

対象とならない費用

福利厚生費、法定福利費、退職金など

参考:公募要領 18次締切分(p.14|ものづくり補助金

たとえば、事業計画が3年間と仮定した場合、事業計画終了時点での成長率は「1.5%×3」の計算式から「4.5%」です。基準年度の給与支給総額が400万円の従業員の場合、「400万円×1.045」の計算式より、3年後の給与支給総額は「418万円」以上に賃上げすることになります。

また、事業計画が5年間と仮定した場合、事業計画終了時点での成長率は「1.5%×5」の計算式から「7.5%」となります。基準年度の給与支給総額が年間400万円の従業員の場合、「400万円×1.075」の計算式より、5年後の給与支給総額は「430万円」以上に賃上げすることになります。

なお、給与支給総額の確認は事業計画終了後の1度のみです。事業計画の最中に要件となる額を超えた場合でも、事業計画終了時点での給与支給総額が要件を満たしていない場合は未達となるため、申請予定の人は念頭に置いておきましょう。

従業員がいない場合の算出方法に留意する

従業員がいない場合は給与支給総額の算出方法に留意しましょう。従業員がいない場合は従業員がいる場合と給与支給総額の算出方法が異なるため、従業員がいない申請者は給与支給総額の算出方法に留意することになります。

【従業員がいない場合の算出方法】

項目

算出方法

法人

役員報酬

個人事業主

青色申告特別控除前の所得金額

たとえば、従業員がいない法人の場合、「役員報酬」が給与支給総額に該当します。ものづくり補助金の公募要領では、給与支給総額の費用例に役員報酬が含まれているため、従業員がいない法人の場合は役員報酬を増加させることになります。

また、従業員がいない個人事業主の場合、「青色申告特別控除前の所得金額」が給与支給総額に該当します。個人事業主の給与支給総額は「給料賃金+専従者給与+青色申告特別控除前の所得金額」の計算式から算出しますが、従業員がいない場合は事業者個人の所得金額を増加させることになります。

ものづくり補助金は従業員がいない事業者も申請が可能です。従業員がいない場合、賃上げ要件を満たすためには、法人と個人事業主での給与支給総額の算出方法が異なるため、従業員がいない事業者はそれらの点に留意しましょう。

最低賃金の引き上げ

賃上げに関する基本要件のひとつは「最低賃金の引き上げ」です。基本要件では、事業計画期間中、毎年の事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準を維持することと定められているため、まずは最低賃金の引き上げに関する基本要件を確認してみましょう。

【事業場内最低賃金の概要】

項目

概要

対象となる人

  • 補助事業を実施する事業場内で働く従業員

対象となる賃金

  • 毎月支払われる基本給と諸手当

対象とならない賃金

  • 時間外勤務手当、通勤手当、賞与など

算出方法

  • 日給の場合は日給÷1日の所定労働時間
  • 月給の場合は月給÷1か月平均所定労働時間

事業場内最低賃金の対象となる賃金は、毎月支払われる基本的な賃金です。「正社員」「パート」「アルバイト」など、常時勤務する従業員の「基本給」と「諸手当」を合算し、時給換算した額から事業場内最低賃金を算出します。

月給が「20万円」かつ1か月の平均所定労働数が「8時間×22日=176時間」の従業員の場合、「20万円÷176時間」の計算式より、時給換算額は「1, 136円」となります。対象となる従業員の時給換算額が地域別最低賃金から「+30円」以上になるように賃上げをすることになります。

なお、ものづくり補助金に採択された場合、事業計画期間中は毎年3月分の賃金台帳を提出することになります。賃上げ要件を満たしているかどうかの確認を毎年受けることになるため、ものづくり補助金を申請予定の人は念頭に置いておきましょう。

地域別最低賃金の改定に留意する

最低賃金の引き上げを行う場合は地域別最低賃金の改定に留意しましょう。地域別最低賃金は毎年10月ごろに改定されるため、翌年3月に提出する賃金台帳では、事業場内最低賃金を改定後の地域別最低賃金から「+30円」以上としなければなりません。

【地域別最低賃金の推移】

都道府県

令和元年度

令和2年度

令和3年度

令和4年度

令和5年度

東京都

958

985

1,041

1,072

1,113

神奈川県

956

983

1,040

1,071

1,112

大阪府

909

936

964

1,023

1,064

北海道

861

861

899

920

960

参考:「平成14年度から令和5年度までの地域別最低賃金改定状況」|厚生労働省

東京都の場合、令和510月に改定された地域別最低賃金は1,113円です。令和53月の賃金台帳では「1,072円+30円」の計算式より「1,102円」以上の賃金ならば要件を満たせますが、改定後の令和63月分の賃金台帳では、「1,113円+30円」の計算式より「1,143円」以上に賃上げしなければなりません。

また、北海道の場合、令和510月に改定された地域別最低賃金は960円です。令和53月の賃金台帳では「920円+30円」の計算式より「950円」以上の賃金ならば要件を満たせますが、改定後の令和63月分の賃金台帳では、「960円+30円」の計算式より「990円」以上に賃上げしなければなりません。

なお、地域別最低賃金の引き上げ額は毎年変わります。地域別最低賃金は例年引き上げられる傾向にあるため、ものづくり補助金を申請予定の人は必要となる賃上げ額が増える可能性があることを念頭に置いておきましょう。

申請に必須ではない賃上げ要件もある

ものづくり補助金の要件には、申請に必須ではない賃上げ要件があります。基本要件以外の賃上げ要件を満たすことにより、採択の可能性が上がる場合や補助上限額が上がる場合があるため、基本要件を押さえた人は必須ではない賃上げ要件も確認しておきましょう。

【必須ではない賃上げ要件の例】
  • 賃上げによる加点
  • 大幅賃上げによる特例

必須ではない賃上げ要件には、「賃上げによる加点」「大幅賃上げによる特例」が挙げられます。必須ではありませんが、基本要件を上回る賃上げを行うことにより、優遇措置を受けられる可能性があるため、ものづくり補助金を申請予定の人は各要件を確認してみましょう。

賃上げによる加点

必須ではない賃上げ要件のひとつは「賃上げによる加点」です。基本要件を上回る賃上げ計画を策定し、賃金引上げ計画の誓約書を提出することにより、ものづくり補助金の審査における加点を申請できるため、採択率を上げられる可能性があります。

【賃上げによる加点の要件】

事業計画の項目

(ア)の加点要件の場合

(イ)の加点要件の場合

給与支給総額

年平均成長率平均3%以上増加させる

年平均成長率平均6%以上増加させる

事業場内最低賃金

  • 毎年3月に地域別最低賃金より+50円以上の水準にする
  • 毎年+50円以上ずつ増加させる
  • 毎年3月に地域別最低賃金より+50円以上の水準にする
  • 毎年+50円以上ずつ増加させる

参考:公募要領 18次締切分(p.41)|ものづくり補助金

給与支給総額の要件は(ア)が「年平均成長率平均3%以上増加」、(イ)が「年平均成長率平均6%以上増加」です。(イ)の方が(ア)よりも厳しい要件となるため、賃上げによる加点を目指す場合は大幅な賃上げの可否を検討することになります。

事業場内最低賃金の要件はいずれも事業場内最低賃金を「毎年3月に地域別最低賃金より+50円以上」「毎年+50円以上ずつ増加」です。基本要件よりも毎年の賃上げ額が上がるため、賃上げによる加点を目指す場合は持続的な賃上げの可否を検討することになります。

なお、ものづくり補助金の公式サイトのデータポータルでは、採択率は加点項目数と比例する傾向があります。採択率を上げられる可能性があるため、基本要件を上回る賃上げが可能な事業者は賃上げ加点の申請を検討してみましょう。

大幅賃上げによる特例

必須ではない賃上げ要件のひとつは「大幅賃上げによる特例」です。基本要件を上回る賃上げを行うことにより、「大幅賃上げに係る補助上限額引上の特例」の申請が可能となるため、申請枠や従業員数によっては補助上限額を最大2,000万円引き上げられる可能性があります。

【大幅賃上げに係る補助上限額引上の特例の概要】

項目

概要

追加要件

  • 給与支給総額を基本要件に加えて年平均成長率4.5%以上(合計6%以上)増加させること
  • 事業場内最低賃金を毎年3月に地域別最低賃金+50円以上の水準とすることを満たした上、毎年+50円以上増額すること
  • 応募時に上記の達成に向けた具体的かつ詳細な事業計画を提出すること

補助上限額の引き上げ額

<省力化(オーダーメイド枠)>

従業員数5人以下:上限から最大250万円

従業員数6人~20人:上限から最大500万円

従業員数21人~50人:上限から最大1,000万円

従業員数51人~99人:上限から最大1,500万円

従業員数100人以上:上限から最大2,000万円

 

<製品・サービス高付加価値化枠、グローバル枠>

従業員数5人以下:上限から最大100万円

従業員数6人~20人:上限から最大250万円

従業員数21人以上:上限から最大1,000万円

参考:公募要領 18次締切分(p.20)|ものづくり補助金

特例における賃上げ要件は3つあります。「給与支給総額の増加」「事業場内最低賃金の増加」「大幅な賃上げを達成する事業計画の提出」が要件となるため、補助上限額を上げたい場合は各目標を達成する事業計画を策定することになります。

また、補助上限の引き上げ額は申請枠と従業員数によって異なります。省力化枠の場合、従業員が100人以上の申請者は、申請枠の上限から最大2,000万円の引き上げとなるため、省力化枠の最大8,000万円の補助額と合わせて最大1億円に上がる可能性があります。

ただし、大幅賃上げによる特例を活用できない場合があります。「新型コロナ回復加速化特例の申請をする場合」「各申請枠の補助金額の上限額に達しない場合」「再生事業者」「常勤従業員がいない場合」はこの特例に申請ができないため、申請予定の人は留意しましょう。

未達の場合はペナルティを科せられる可能性がある

賃上げ要件が未達の場合は、ペナルティを科せられる可能性があります。補助金の受給後は「事業化状況報告」で賃上げ状況の確認を受けることになりますが、未達の場合はペナルティを科せられる可能性があるため、申請予定の人は内容を押さえておきましょう。

【賃上げ要件が未達の場合のペナルティの例】
  • 補助金の返還
  • 補助金申請時の大幅減点

賃上げ要件が未達の場合のペナルティは、「補助金の返還」「補助金申請時の大幅減点」が挙げられます。ペナルティの内容は未達となる賃上げ要件次第となるため、ものづくり補助金を申請予定の人は各項目を確認してみましょう。

補助金の返還

賃上げ要件が未達の場合、ペナルティのひとつは「補助金の返還」です。「基本要件が未達の場合」と「大幅賃上げによる特例の要件が未達の場合」は、受給した補助金の返還が求められるおそれがあるため、申請予定の人は内容を押さえておきましょう。

【補助金の返還の概要】

未達となる要件

ペナルティ

基本要件

<給与支給総額の増加が未達の場合>

導入した設備などの簿価または時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分の返還

 

<事業場内最低賃金の増加が未達の場合>

補助金額を事業計画年数で割った額の返還

大幅賃上げによる特例の要件

<給与支給総額の増加が未達の場合>

補助金交付金額から各申請枠の従業員規模ごとの補助上限額との差額分を返還

 

<事業場内最低賃金の増加が未達の場合>

補助金交付金額から各申請枠の従業員規模ごとの補助上限額との差額分を返還

 

<常時使用する従業員がいなくなった場合>

補助金交付金額から各申請枠の従業員規模ごとの補助上限額との差額分を返還

参考:公募要領 18次締切分(p.14)|ものづくり補助金

たとえば、基本要件の給与支給総額の増加が未達の場合は、導入した設備費の一部を返還することになります。給与支給総額は事業計画終了時点に確認されるため、「残存簿価または時価×補助金額/実際の購入金額」の計算式により、返還額を算出できます。

また、基本要件の事業場内最低賃金の増加が未達の場合は、補助金額を事業計画年数で割った額を返還することになります。事業場内最低賃金は毎年3月に確認されるため、5年間の事業計画のうち1年が未達の場合は補助金額の5分の1を返還する計算です。

ただし、補助金返還義務は免除される場合があります。「事業者の責めに負わない理由がある場合」「付加価値額増加率が年平均成長率1.5%に達しない場合(事業場内最低賃金の増加が未達の場合)」などの規定があるため、申請予定の人は免除規定も押さえておきましょう。

補助金申請時の大幅減点

賃上げ要件が未達の場合、ペナルティのひとつは「補助金申請時の大幅減点」です。「賃上げ加点の要件」が未達の場合は、補助金を申請する際に大幅に減点されるおそれがあるため、申請予定の人は内容を押さえておきましょう。

【補助金申請時の大幅減点の概要】

未達となる要件

ペナルティ

賃上げ加点の要件

未達報告を受けてから18か月、ものづくり補助金の次回公募と中小企業庁が所管する他の補助金への申請時に大幅に減点される

参考:公募要領 18次締切分(p.39)|ものづくり補助金

賃上げ加点の要件が未達の場合は未達報告を受けてから18か月間、他の補助金への申請時に大幅に減点されます。ものづくり補助金の次回公募も大幅減点の対象となるため、申請予定の人は留意が必要です。

また、中小企業庁が所管する他の補助金も大幅減点の対象です。「サービス等生産性向上IT導入支援事業」「小規模事業者持続化補助金」「事業承継・引継ぎ補助金」など、いくつかの補助金が対象となるため、申請予定の人は留意が必要です。

ただし、自己の責任によらない理由がある場合は、ペナルティが免除されることがあります。事業化状況報告時に未達の理由を説明し、認められた場合は大幅な減点が免除される可能性があるため、賃上げ加点を申請する予定の人は念頭に置いておきましょう。

この記事のまとめ

ものづくり補助金の受給には、賃上げが必須です。「給与支給総額の増加」と「最低賃金の引き上げ」はものづくり補助金の基本要件に含まれるため、これらの賃上げ要件を含む3つの基本要件を満たす3から5年の事業計画を策定しなければなりません。

ものづくり補助金の要件には、必須ではない賃上げ要件もあります。基本要件を上回る賃上げを達成することにより、採択の可能性が上がる場合や補助上限額が上がる場合があるため、基本要件を押さえた人は必須ではない賃上げ要件も確認しておきましょう。

ただし、賃上げ要件が未達の場合は、ペナルティを科せられる可能性があります。ものづくり補助金の受給後は「事業化状況報告」で賃上げ状況の確認を受けることになるため、申請予定の人は未達の場合のペナルティを確認した上で申請を検討してみてください。

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